「血腫」とは?分娩の数時間後に発症するため後陣痛と勘違いされやすい?

カテゴリ:出産の基礎知識
タグ:産褥期異常

血腫とは?

血腫は出血によって多くの血液が1箇所に溜まり凝固した状態を指しますが、産褥期における血腫は、特に分娩時の骨盤内血管の断裂によって、腟壁粘膜下や外陰皮下、子宮広間膜の結合組織内で発生する血腫の事を言います。

原因は?

腟壁裂傷会陰裂傷に伴う出血や、その治療時の腟壁縫合や皮下縫合(会陰の縫合)の際の縫合が適切ではない場合(縫合不全)に、腟壁血腫などの静脈性の血腫が発生する可能性があります。
産褥期の血腫のもっとも多い要因は鉗子分娩吸引分娩などの産科手術ですが正常分娩時にも発生する場合があります。
なお、分娩後数時間経ってから発生する事が多く、創部痛や後陣痛と勘違いして適切な治療が遅れた場合、血腫の状態が悪化する可能性があります。

リスク因子

以下の症状が合併している場合に血腫が発生する可能性が高まります。

妊娠期

  • 妊娠高血圧症候群
  • 妊娠静脈瘤
  • 妊娠貧血
  • 高年初産婦

分娩時

  • 巨大児
  • 急速な分娩
  • 吸引・鉗子分娩

初期症状は?

血腫が発生した際の主な症状は以下となります。

  • 拍動性の腟・外陰部の痛み
  • 会陰部の痛み
  • 肛門部の痛み
  • 排尿・排便時の痛み

出産や胎児へのリスクは?

血腫は激しい痛みを伴いますが、創部痛や後陣痛など、誤った診断をしてしまい放置すると増大し続けます。
血腫が大きくなるにつれ内出血量も増えていくため、出血性ショック産科DICを呈する可能性があり、その場合、母体の生命の危険があります。

血腫が原因で母体救命搬送された実例

実際に、血腫が原因で母体救命搬送された例として、腟壁血腫が後腹膜腔に進展し、出血性ショックに至り、開腹による内腸骨動脈結紮術と圧迫止血処置が必要になった例や、腟壁血腫と弛緩出血の合併によってDICに至り、輸血と抗DIC療法の処置となった例もあります。

予防方法は?

上述したリスク因子は予知することや予防することが困難なものばかりであり、それらによって引き起こされる血腫は予測することは可能ですが、発生自体を予防することは難しいのが現状です。
特にリスク因子に該当する褥婦(ハイリスク褥婦)の場合、分娩後の定期的な確認と早期発見、早期治療が大切になります。

検査方法は?

分娩後に裂傷がないか等、軟産道を十分に確認します。
特にハイリスク褥婦に対しては、疼痛の拍動性や腟内の疼痛の有無、産褥早期の便意や気分、呼吸困難の有無などを確認し、血腫の徴候がないかを調べます。
また、出血が起きているかの確認のため、分娩期からの総出血量や産褥出血の状態、血液検査による貧血の進行有無や、ショック症状の徴候(血圧低下、蒼白、虚脱、冷汗、脈拍触知不能、呼吸不全)の有無も調べます。
血腫が疑われる場合は、CTやMRI画像診断による血腫部位の診断を行います。

治療方法は?

通常は、以下の2つの治療を行います。

  • 局所の圧迫(冷罨法、腟壁血腫の場合は腟内タンポン)
  • 止血薬の投与(抗生物質、抗炎症薬の投与)

なお、血腫が大きい場合や増大する可能性が高い場合は、切開手術により、血腫ドレーン(血液を排出するための管)の設置や、凝血塊(血の塊)を除去し、出血部位を縫合して結紮(けっさつ)します。
※結紮は医学用語で、血管を縛って止血することを意味します。
もし周囲の組織が脆く、縫合止血で十分な止血が行えない場合、圧迫止血を実施します。

公開日時:2017年07月17日 10時58分

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