不妊治療の種類と成功率、健康保険適用内の療法とは?
不妊治療とは?
不妊治療には大きく分けてタイミング法、排卵誘発剤を使用する方法、人工授精法、体外受精法、顕微授精法があります。
それぞれの方法の概要は以下の通りです。
種類 | 方法 |
---|---|
タイミング法 | 排卵日を予測して性交渉を行う |
クロミフェン療法 | 排卵誘発剤を使用して排卵を起こさせる |
ゴナドトロピン療法 | |
配偶者間人工授精法 | 精子を採取して子宮腔内に注入する |
体外受精胚移植法 | 採卵を行い精子をふりかけて体外受精を行う |
卵細胞質内精子注入法(顕微授精法) | 採卵を行い卵子に精子を注入して受精させる |
※なお、体外受精では排卵誘発剤を使用しない完全自然排卵周期療法という方法もあります。
種類
タイミング法
タイミング法は卵子が排卵される日を狙って性交を行う方法です。
最も受精しやすい時期は排卵前の2日前、次に1日前です。
実施方法
基礎体温から排卵日を予測
基礎体温(BBT)を毎日同じ時刻に測り、基礎体温表から排卵日を予測し、その2日前に性交を行います。
月経の終了後は卵胞期に入り、エストロゲン(卵胞ホルモン)が分泌されることで体温が低下(低温期)します。
排卵が起こるとプロゲステロン(黄体ホルモン)が分泌され今度は体温が上昇(高温期)します。
この体温が上がる日が排卵日となるため、数ヶ月間の基礎体温表からその周期を把握し、排卵日を予測します。
生理周期から排卵日を予測
なお、月経の開始日の2周間前(14日前±2日)が排卵日となるため、生理周期が一定であれば月経前の16日前頃が最も妊娠しやすい時期と言えます。
生理開始日と生理周期から数ヶ月先の推定排卵日を素早く知るには生理周期・排卵周期表(カレンダー)が便利です。
成功率
健康な男女の場合、1週目で妊娠する確率は20%程度です。
但し、5週目でも妊娠しない場合、タイミング法による妊娠では難しい可能性があります。
費用
基礎体温を測定し、タイミングを合わせるだけであれば費用はかかりません。
病因で検査などを実施した場合は、1周期あたり約5,000~10,000円程度かかります。
※健康保険適用の範囲内
備考
基礎体温を測る事で排卵の有無、排卵日、黄体機能が分かりますが、現在は内分泌的検査や超音波検査の進歩によりそれらが信用できない事が明らかになって来ています。
また日々の体温測定により、女性は神経質になり、返って無精卵や排卵遅延、黄体機能不全を呈する場合があります。
このような場合には一旦タイミング法を止めてみることも手です。(タイミング法を止めた途端、妊娠することがあります)
クロミフェン療法
クロミフェン療法は排卵誘発剤の1つのクロミフェン(選択的エストロゲン受容体調節薬)を服用し、排卵を誘発する方法で、主に無排卵症や排卵過少症で使用される療法です。
実施方法
クロミフェン療法の流れは以下となります。
- 基礎体温表から高温期や月経周期の短縮がないかの検証、卵胞径、卵胞数、E2値(エストロゲンの成分の1つのエストラジオールの値)のなどの測定を行います。
- 上記に異常がなければ月経3日目より毎日50mgのクロミフェンの服用を開始します。(もし異常があった場合はカウフマン周期を行った後に採卵周期を開始します)
- 複数個の卵胞の発育の可能性がある場合にはhMG(性腺刺激ホルモン)を投与します。(原則、月経8日目から隔日投与)
- 卵胞が15mm以上に育った時点でE2とLH(黄体形成ホルモン)を測定し、発育が順調か、早いか、遅いかを確認します。
※早い場合は次の卵胞の発育に焦点を絞るために、LHとFSHの産生を促すGnRHアンタゴニストの使用を検討します。
※遅い場合は多嚢胞性卵巣症候群や下垂体機能障害の確認や調節卵巣刺激(COH)を検討します。 - 主席卵胞が18mm以上に育った時点で再度E2値を測定し、1卵胞あたり300pg/mL以上を目処として排卵を引き起こすために酢酸ブセレリンの噴霧(片鼻1回150mg)を行います。
※酢酸ブセレリンはLHサージと呼ばれるLH(黄体形成ホルモン)の放出を促し排卵を誘発します。 - 酢酸ブセレリンの初回噴霧から32~35時間の間に排卵が起きるため性交渉もしくは体外受精の場合は採卵を行います。(LH基礎値が高い場合は30~32時間で採卵)
- 体外受精の場合は胚を移植後、黄体期を管理しながら移植後10~12日目(胚盤胞移植の場合7~10日目)に妊娠判定を行います。
成功率
排卵率は約70%です。
費用
1周期あたり約50,000円程度かかります。(体外受精を行わない場合)
※健康保険適用の範囲内(体外受精を行わない場合)
ゴナドトロピン療法(hMG-hCG療法)
ゴナドトロピンは黄体化ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)を指し、hMG製剤にはFSHとLHが両方含まれています。
ゴナドトロピン療法はこのhMG(性腺刺激ホルモン)とhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を注射で投与し、排卵を誘発する方法です。
クロミフェン療法よりも強い排卵誘発効果があります。
実施方法
- 月経周期第3~5日頃よりhMG製剤(1日75IU~225IU)を連日投与(注射)します。
- 最大卵胞径が16~18mmになった時点でhCG(5000~10000IU)を投与(注射)して排卵を誘発します。
- hCG投与後、36~48時間の間に排卵が起きるため性交渉もしくは体外受精の場合は採卵を行います。
- 体外受精の場合は胚を移植後、黄体期を管理しながら移植後10~12日目(胚盤胞移植の場合7~10日目)に妊娠判定を行います。
成功率
排卵率は90%以上です。
費用
1周期あたり約2,000~3,000円程度かかります。(体外受精を行わない場合)
※健康保険適用の範囲内(体外受精を行わない場合)
配偶者間人工授精法(AIH)
配偶者間人工授精法は、採取した精子を子宮腔内に注入して受精させる方法で、主に男性不妊(乏精子症、精子無力症)のための生殖補助技術(AR)であり、子宮腔内人工授精が最も基本的な授精法です。
雌性生殖路において、最初の壁は子宮頸管であり、運動精子のみが子宮頸管粘膜を通過できます。
配偶者間人工授精法は腟に射精された精子が雌性生殖路を遡上し、卵管膨大部に到達するまでを代行する事が目的です。
実施方法
- 射精精子を洗浄(精液希釈、濾過、上清採取、濃縮、上清除去)し運動精子を選別(遠心分離)し、濃縮度0.2~0.5mLを子宮腔内に緩徐に注入します。
※原則として用手的に採取した精液を液化後2時間以内に使用します。
※採取した精液は白血球および細菌検査を実施し、白血球や細菌が多い場合は中止します。
※禁忌として男性側の感染症や女性側の両側卵巣閉塞があります。 - 基礎体温の測定、頸管粘膜の性状観察を行い、超音波断層法を用いて卵胞径の計測、尿中LHの測定を実施し推定排卵日を定めます。
- 推定排卵日に人工授精を実施します。(授精針を装着した注射器で精液または洗浄濃縮精子を子宮腔内に挿入して注入)
- 翌日もしくは翌々日に基礎体温、頸管粘液、超音波断層検査を実施して排卵の確認を行います。
※注入量が多すぎたり、注入速度が早すぎると子宮攣縮や腹膜刺激が起こり疼痛を呈する場合があります。
※子宮内感染の予防のため、受精日もしくはその翌日に抗生物質を投与(服用)します。
成功率
妊娠率は1周期あたり7~9%です。
費用
1周期あたり約10,000~50,000円程度かかります。
※健康保険適用の範囲外
体外受精胚移植法(IVF-ET)
体外受精胚移植法は、採取した卵子に精子をふりかけて体外受精させ、2~3日間胚培養を行い、子宮腔内に胚移植を行う方法です。
また、胚盤胞となる約5日間培養し、子宮腔内に戻す胚盤胞移植もあります。
実施方法
- 卵巣刺激(最初~3日間はFSH製剤、続けてhMG製剤、2個の卵胞の卵胞径が17~18mmに達した時点でhCGを5000IU投与)を行い採卵します。
- 体外受精を行い、培養を行います。(胚は3日間、胚盤胞は5日間)
※余剰胚盤胞は冷凍保存(凍結胚盤胞)し、次回の胚盤胞移植に備える事が可能です。 - 培養した胚もしくは胚盤胞を子宮腔内に移植します。
成功率
胚盤胞移植では妊娠率、着床率共に約50%です。
費用
1周期あたり約200,000~800,000円程度かかります。
※健康保険適用の範囲外
備考
排卵誘発剤を使用せず、自然な月経周期の中で採卵をし、授精させる完全自然排卵周期療法というものがあります。
なお、この方法は年齢の若い人、月経周期が正常で卵巣機能に問題のない人が対象になります。
卵細胞質内精子注入法(顕微授精法:ICSI)
卵細胞質内精子注入法(以下、顕微授精法)は男性不妊、特に精子数がきわめて寡少な場合に用いられる方法です。
体外受精胚移植法と異なる点は、体外受精胚移植法は卵子に精子をふりかけて自然受精させるのに対して、顕微授精法は顕微鏡下で卵子に直接精子を注入して受精させる点です。
卵子1個に対して精子1個で良いため、精子数が寡少な場合に有効な方法です。
実施方法
実施方法は顕微授精させる点以外は体外受精胚移植法(IVF-ET)と同じです。
- 卵巣刺激
- 採卵
- 顕微授精
- 培養(胚は3日間、胚盤胞は5日間)
- 子宮腔内に移植
成功率
受精率は70%以上、着床率は40歳未満では25%程度、40歳以上では7~15%程度です。
40際を過ぎると着床率が大幅に下落します。
費用
1周期あたり約200,000~800,000円程度かかります。
※一般的には胚移植法の料金+顕微授精料金(50,000~80,000円程度)です。
※健康保険適用の範囲外
備考
乏精子症や無精子症患者の内、約7%で遺伝子欠損が見られ、染色体異常となる可能性が健常者よりも高くなります。
また自然受精とは異なり、顕微授精の実施者の経験と勘で形態良好の精子を選別(人工的な選別)するため、また精子そのもののDNA構造異常を調べるわけではなく、選別者の技量に左右されるという側面が問題視されています。
公開日時:2017年09月18日 23時36分
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