「呼吸窮迫症候群」とは?肺サーファクタントが産生されるのはいつ頃から?
呼吸窮迫症候群とは?
呼吸窮迫症候群(RDS)は肺サーファクタントの量的および機能的欠如に基づく出生後の呼吸障害と定義されています。
肺サーファクタント
肺サーファクタントは、肺胞が潰れるのを防いでくれる肺表面活性物質(界面活性剤)で、肺胞II型上皮細胞で作られます。
通常、肺胞の内側は肺サーファクタントが膜状に覆っており、呼吸の際に息を吐くと肺胞は空気が抜けて萎みますが、その際、肺サーファクタントが肺胞が潰れる(虚脱)のを防ぐ役目を果たしてくれます。
※虚脱は、肺胞が潰れた状態を指し、肺胞に空気が入らない状態です。一度潰れた肺胞は大きな圧力をかけないと再び膨らみません。
この肺サーファクタントが不足した場合、肺胞の虚脱が起き、呼吸障害を引き起こします。
原因は?
通常、出生後の赤ちゃんは肺呼吸の開始に伴い、上述した肺サーファクタントの合成・分泌が刺激され、生後48~72時間頃から肺サーファクタントが分泌されるようになります。
しかし、肺胞が十分に膨らまず虚脱した場合、肺サーファクタントが十分に分泌されず、呼吸窮迫症候群になります。
特に以下の場合に発生のリスクが高くなります。
- 妊娠33週未満の早産児(肺サーファクタントの産生は妊娠34週以後)
- 母親が肺サーファクタントが不活性化している糖尿病
- 帝王切開児
初期症状は?
主な症状は以下の4つになります。
- 多呼吸(呼吸数が毎分60回以上)
- 陥没呼吸(吸気時に肋間腔や剣状突起部が陥没)
- 呻吟(吸気時に狭まった声帯から漏れる狭窄音)
- チアノーゼ
チアノーゼ
チアノーゼは毛細血管内の酸素飽和度が減少することで、皮膚や爪床などが紫藍色調(藍色をおびた紫色)になる症状です。
先天性心疾患や呼吸器不全などの低酸素血症による中心性チアノーゼとショックや低体温などによる末梢性チアノーゼに分類されます。
呼吸窮迫症候群は前者になりますが、原因が不明な場合のチアノーゼに対しては高濃度酸素の投与は厳禁とされています。
※例えば、先天性心疾患では、酸素投与により肺血管抵抗(Rp)が下がり、肺動脈に多量の血液が流れ、肺うっ血や心不全を助長する恐れがあります。
出産や胎児へのリスクは?
数十年前までは、未熟児の呼吸窮迫症候群は生命の危険性が高い疾患でしたが、人工サーファクタントの開発により、劇的に状況が改善しています。
現在、未熟児で呼吸窮迫症候群が原因で死亡する事は殆どありません。
但し、在胎24週未満の未熟児の場合などでは、死亡や重篤な後遺症があるなど、予後不良の場合も多くあります。
予防方法は?
母体にステロイドを投与し、胎児の肺成熟を促します。
検査方法は?
呼吸窮迫症候群の診断方法としては、主に、X線診断と生化学的診断があります。
X線診断
呼吸窮迫症候群の重症度を判断する目安として、以下のBomsel分類が用いられます。
程度 | 網状顆粒状陰影 | 肺野の明るさ | 中央陰影の輪郭 | Air Bronchogram |
---|---|---|---|---|
1度 | かろうじで認められる微細な顆粒状陰影がある(末梢部に比較的多い) | 正常 | 鮮明 | 欠如または不鮮明(中央陰影の範囲を出ない) |
2度 | 全肺野に網状顆粒状陰影がある | 軽度に明るさ減少 | 鮮明 | 鮮明(しばしば中央陰影の外まで伸びる) |
3度 | 粗大な顆粒状陰影がある | 著明に明るさ減少 | 不鮮明・中央陰影拡大 | 鮮明(気管支の第2・第3分岐まで認められる) |
4度 | 各肺野が均等に濃厚影で覆われる | 消失 | 鮮明 |
特徴的な所見
特に呼吸窮迫症候群の特徴的な所見は以下となります。
- 虚脱して空気の少ない肺胞と、十分な空気が入っている肺胞が混在している状態(網状顆粒状陰影)
- 肺全体の含気量が少ないため、すりガラス様に写り、心陰影が不明瞭(すりガラス様陰影)
- 本来は肺胞に空気が入っているために見えない気管支が、虚脱のために浮き彫りになって見える(気管支透亮像)
生化学的診断
以下のテスト方法を用いて、新生児の肺内のサーファクタントの存在を確認します。
マイクロバブルテスト
羊水や胃液に混入した肺サーファクタントを測定する検査になり、ピペットで吸引、排出して泡立たせ、顕微鏡で1m㎡中の直径15μm以下の泡の数を数えます。
なお、羊水よりも胃液に肺サーファクタントが混入するため、羊水を用いる場合は判定を1段下げます。
シェイクテスト
羊水に95%エタノールを加えて振り、羊水中のサーファクタントが気泡を作るのを見る検査です。
もし、シェイクテストが陽性の場合、肺が成熟されていない状態となります。
治療方法は?
治療方法には以下の2つの療法があります。
人工サーファクタント補充療法
気管内に挿管し、人工サーファクタントを生理食塩水に溶解したものを3~4回に分けて投与し、投与の度に体位変換を行いながら肺全体に均一に注入されるようにします。
なお、人工サーファクタントの投与後、呼吸状態が改善し、肺血管抵抗(Rp)が下がるため、動脈管開存症(PDA)や肺出血に注意しながら実施する必要があります。
人工換気療法
肺に優しい呼吸管理法として、人工換気療法が用いられます。
新生児の未熟な肺の場合、高い換気圧や酸素濃度により肺損傷(強い圧をかける事で気管支や肺胞が破れる)が起き、慢性肺疾患を引き起こす原因となる可能性があるためです。
人工換気療法には以下の3つの方法があります。
- 間欠的強制換気(IMV)
- 高頻度振動換気(HFO)
- 持続的気道陽圧(CPAP)
※但し、持続的気道陽圧は自発呼吸が行える軽度の呼吸窮迫症候群のみに行われます。
公開日時:2017年07月26日 17時48分
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