「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」とは?90%以上で月経異常が現れる?
多嚢胞性卵巣症候群とは?
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS:polycystic ovary syndrome)は月経異常(無月経など)、不妊、男性化徴候(多毛など)、肥満、両側卵巣の嚢胞状肥大を主徴とする症候群です。
原因は?
多嚢胞性卵巣症候群は実際には卵巣自体の疾患ではなくホルモンバランスの不均衡から来る疾患です。
主原因はインスリン抵抗性(インスリンが効きにくい状態になり血液からグルコースが吸収されにくくなる症状で2型糖尿病の原因)です。
インスリン抵抗性によりホルモンが過剰に産生され、ホルモンのバランスが崩れます。
例えば女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)が減少した場合、排卵障害が起こります。
また男性ホルモンであるテストステロンの増加は男性化を引き起こします。
初期症状は?
多嚢胞性卵巣症候群では主に以下の症状が現れます。
月経異常
月経異常は多嚢胞性卵巣症候群患者の約92.1%で起こります。
月経異常には無排卵周期症(19.4%)、希発月経(35.4%)、第1度無月経(42.8%)、第2度無月経(2.4%)があります。
中でも第1度無月経が多く認められ、希発月経や無排卵周期症など、内因性のエストロゲンの分泌はある程度保たれています。
これらの月経異常に伴う排卵障害は不妊の原因になります。
不妊
上述の月経異常による排卵障害により不妊になります。
多嚢胞性卵巣症候群患者の内の98.7%が不妊症です。
また、多嚢胞性卵巣症候群は性腺刺激ホルモンの1つであるLH(黄体形成ホルモン)値の上昇を引き起こしますが、LH値の上昇は卵子の質の低下を招き、流産の原因になることが分かっています。
男性化徴候
エストロゲンの分泌減少により男性化が起こります。
男性化の主な症状は多毛、にきび、低声音、陰核肥大などが挙げられます。
特に低声音、陰核肥大はテストステロンの分泌量増加も関係しています。
肥満
エストロゲンの減少により、満腹ホルモンであるレプチンが減少し、空腹ホルモンであるグレリン増加するため食欲が増加し、肥満になる傾向があります。
発生する確率は?
多嚢胞性卵巣症候群は月経のある女性の内の約5~10%で起こります。
予防方法は?
インスリン抵抗性から来るホルモンバランスの不均衡が根本原因であり、インスリン抵抗性は生活習慣の乱れから来るため、適切な運動、バランスの良い食事(野菜を多く摂取し、脂肪や糖分、炭水化物を避ける)、暴飲暴食を避ける事などが予防方法として挙げられます。
また、ハーブにもインスリン抵抗性を抑える作用をするものがあり、柑橘系植物のキハダ、漢方薬の黄連(オウレン)に含まれるベルベリンという物質が効果があることが分かっています。
なお、これらの予防方法は2型糖尿病の予防と同様です。(どちらもインスリン抵抗性が原因であるため)
検査方法は?
多嚢胞性卵巣症候群の診断検査は、主に月経異常の有無、高LH血症、超音波断層法により診断します。
臨床所見
臨床所見では以下の徴候を確認します。
- 月経異常
- 男性化
- 肥満
- 不妊
内分泌検査
多嚢胞性卵巣症候群ではLH(黄体形成ホルモン)が高値となり、FSH(卵胞刺激ホルモン)は正常値であるのが特徴であるため、これらの値から鑑別します。
- LHの基礎分泌量が高値
- FSH(卵胞刺激ホルモン)が正常値
- LH-RH負荷試験
※多嚢胞性卵巣症候群の場合、LHは過剰反応、FSHは正常反応となります。 - エストロゲン・エストラジオール比の高値
- テストステロンまたはアンドロステンジオンの高値
※テストステロンは男性ホルモン、アンドロステンジオンは男性ホルモンの総称です。
卵巣状態の確認
超音波断層法を用いて卵胞の嚢胞状態や卵巣の大きさなどを確認します。
- 超音波断層法検査による卵巣内の多数の嚢胞状の卵胞の有無の確認
- 卵巣の肥大の確認
- 開腹または腹腔鏡による卵巣の白膜(卵巣の皮)の肥厚や表面隆起の有無の確認
- 組織検査による内卵胞膜(内莢膜細胞層)の肥厚や増殖、間質細胞の増加の有無の確認 ※莢膜は卵胞を囲む膜で内側の膜を内莢膜と呼び、エストロゲンの材料となるアンドロゲンを産生します。
治療方法は?
治療方法は大きく分けて内科的治療と外科的治療があります。
※なお、挙児希望(妊娠希望)がない場合は、黄体ホルモンやピルの投与での治療となります。
クロミフェン療法
多嚢胞性卵巣症候群はエストロゲンが減少する事で生じる症状ですが、エストロゲンの基礎分泌は保たれている事が多いため、クロミフェンという抗エストロゲン剤を用いて、視床下部のエストロゲン受容体を阻害し、リバウンド現象を引き起こし、GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)の分泌を促し、ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)の分泌を刺激します。
クロミフェンは内服薬であり、注射のために連日通院する必要がないため、また安価であり、副作用もすくないため、単独投与が行われます。
多嚢胞性卵巣症候群患者の約半数がクロミフェンに反応します。
クロミフェンの使用方法
月経周期もしくは消退出血の第5日目から5日間内服します。
一般的に1日あたり50mgから投与を開始し、状況により150mgまで増量します。
もし投与開始から6週経っても妊娠に至らない場合は、他の薬剤の併用やゴナドトロピン療法に移行するのが良いとされています。
クロミフェンとグルココルチコイドの併用
グルココルチコイドは副腎性アンドロゲンを抑制する副腎皮質ホルモンの1つです。
アンドロゲンは視床下部からGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)の分泌を抑制し、ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)の分泌を抑える働きがあり、グルココルチコイド(副腎皮質ホルモン)の投与によりACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の分泌が抑制されるため、アンドロゲンが低下し、排卵を回復させる作用をもたらします。
グルココルチコイドの使用方法
月経周期もしくは消退出血の第2日目から10~14日間内服します。
デキサメタゾン(2mg/日)あるいはプレドニゾロン(5~10mg/日)を併用します。
クロミフェンとブロモクリプチンの併用
多嚢胞性卵巣症候群では不妊の原因となる高プロラクチン血症を合併する場合が多く、プロラクチンを抑えるブロモクリプチン(経口剤)を服用することで排卵率を向上させることができます。
ゴナドトロピン療法
多嚢胞性卵巣症候群では約15%でクロミフェン抵抗性が確認されており、クロミフェン療法の効果がなく、またその半数では妊娠が成立しません。
その場合、次の手としてゴナドトロピン療法を実施します。
ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)は排卵を誘発させ、その効果は、排卵率は約70%、妊娠率は約30%と報告されています。
OHSS(排卵過剰刺激症候群)のリスク
但し、ゴナドトロピン療法の副作用として過剰な排卵刺激によるOHSS(排卵過剰刺激症候群)や多胎妊娠となるリスクがあります。
このため、排卵誘発と同時に発育卵胞数をできるだけ抑える必要があり重要となります。
例えばFSH(卵胞刺激ホルモン)製剤は、hMG(ゴナドトロピン)製剤に比べて妊娠率はほぼ同等ですが、OHSSの発症率は低い事が分かっています。
そのため、実際の治療では、超音波断層法で卵胞発育の状況の観察や血中エストラジオール(エストロゲンの一種)を測定しながら、薬剤の投与量や投与方法を至適化し、過剰投与を避けることが最も重要になってきます。
ゴナドトロピンの投与方法
FSH製剤を月経周期第3~5日目頃より連日投与し、最大卵胞径が18mmになった時点でhCGを5000単位で投与し排卵を誘発します。
但し卵胞径が16mmを超える卵胞が4個以上ある場合は、副作用を防ぐためにhCGの投与を中断します。
投与方法としては用量固定法だけではなく、以下の用法があります。
- 少量漸増法
- 少量漸減法
- 用量固定法
- CnRHアゴニスト併用法
- FSH-GnRH律動投与法
- GnRHアンタゴニスト併用法
メトホルミン療法
メトホルミンは経口糖尿病治療薬の1つです。
多嚢胞性卵巣症候群ではインスリン抵抗性の関与も認められており、耐糖能異常を是正することで妊娠率を向上させられたという報告があります。
但し、メトホルミン療法を使用できるのは、多嚢胞性卵巣症候群の主原因がインスリン抵抗性病態の場合のみでり、具体的には2型糖尿病患者の場合のみとなります。
※2型糖尿病インスリン抵抗性が高い(インスリンは分泌されているが効きにくい)事で起きる糖尿病で、主に生活習慣が関係しています。
なおメトホルミン療法の有効性については確固たる結論はでていない状況です。
外科的治療
外科的治療では、開腹もしくは腹腔鏡を用いた手術による治療を行います。
開腹手術による両側卵巣楔状切除術、腹腔鏡手術による腹腔鏡下卵巣焼灼術(Laparoscopic ovarian drilling)があり、どちらも卵巣の一部切除(焼灼)によりアンドロゲンの産生を低下させる事が目的です。
術後は約1年程度、排卵周期を回復させる効果があります。
両側卵巣楔状切除術
卵巣楔状切除術(卵巣の一部を切り取る)により、アンドロゲンの産生を低下させます。
特に自然排卵を起こすために両側卵巣楔状切除術が実施されます。
但し、手術侵襲および術後のほぼ必発する癒着が不妊の原因になる可能性があるため、次第に行われなくなってきています。
腹腔鏡下卵巣焼灼術
腹腔鏡下卵巣焼灼術は多嚢胞性卵巣症候群の外科手術の主流になっている手術方法です。
腹腔鏡下でYAGレーザーやKTPレーザー、電気メスなどを用いて左右の卵巣それぞれ20箇所に5~10mm程度の穴をあけ、卵巣莢膜細胞を一部破壊することでアンドロゲンの産生を低下させます。
両側卵巣楔状切除術に比べて手術侵襲が少なく、術後の癒着も軽度でり、自然妊娠成立の可能性が高いのが特徴です。
公開日時:2017年09月16日 22時06分
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