「産科DIC(播種性血管内凝固症候群)」とは?発症率の高い基礎疾患は?

カテゴリ:出産の基礎知識
タグ:分娩合併症

産科DICとは?

DIC(Disseminated Intravascular Coagulation syndrome)もしくは播種性血管内凝固症候群(はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)は、何らかの基礎疾患によって血液の凝固線溶系の平衡が崩れ、血管内の過凝固と二次線溶が交互に繰り返されて、全身的な微小血栓の形成と出血傾向を来す疾患です。
つまり血液の過凝固による血栓、そして二次線溶による大量出血という、血液の凝固と線溶という真逆の現象が同時に起きる、非常に重篤な疾患です。
なお、産科DICは産科の基礎疾患が原因で起きるDICを意味します。

原因は?

基礎疾患

DICを引き起こす、主な産科的基礎疾患は以下となります。

この内、最も発症頻度が高いのが常位胎盤早期剥離で、全産科DICの内の50~60%を占めます。
特に胎児死亡を伴う常位胎盤早期剥離は非常に発症リスクが高くなります。
それ以外では2000mL以上の出血(出血性ショック)や重症感染症、羊水塞栓症もDICを発症しやすい基礎疾患となります。

リスク因子

DICを発症する頻度が高い基礎疾患である常位胎盤早期剥離のリスク因子としては、以下が挙げられます。

なお、出血性ショックに続発して産科DICを発症する場合もあり、出血の原因や部位、発生時期、出血の程度などを早期に見極めることも大切です。

初期症状は?

DICの症状は出血症状から始まります。
例えば外科的な治療による創部からの出血や子宮内からの非凝固性の出血、皮下出血、鼻出血、消化管出血などが見られます。
なお、児の娩出後から突然新鮮血が吹き上げる場合や、じわじわと継続的な出血が起こる場合もあります。
これらの症状も見逃さず早期に発見することが重要になります。

出産や胎児へのリスクは?

DICは発症してから悪化するまでが非常に早く、予後が悪く、母体の死亡率も高い疾患です。
また、胎児が胎外生活が可能な胎齢になっていない場合、胎児の救命も困難となります。

予防方法は?

DICの予防は、原因となる基礎疾患を予防することになりますが、基礎疾患の半数以上を占める常位胎盤早期剥離は原因は不明であり、確立された予知方法や予防方法はないため、難しいのが現状です。
このため、基礎疾患の重篤性や臨床症状などからの早期発見、早期治療が大切になります。
早期発見のためには、一般的に産科DICスコアが用いられます。
基礎疾患を予知するのは難しいですが、もちろんDICの基礎疾患を発症している場合には、DICの発症についても想定し、備えることは可能です。

検査方法は?

DICでは検査で以下のような所見が認められます。

血清FDPの上昇10μg/mL以上
血小板の減少10 x 104/μL以下
フィブリノーゲンの減少150mg/dL以下
プロトロンビン時間の延長15秒以上
赤血球沈降速度の遅延4mm/15分以下

血清FDPの上昇とフィブリノーゲンの減少

血清FDP(Fibrin Degradation Product)の上昇とフィブリノーゲンの減少は線溶現象の典型的な症状です。
まず、体に血栓ができると血栓を溶かすための物質であるプラスミンという酵素が分泌され線溶現象が起きます。
血清FDPはフィブリン(血液凝固因子の1つ)がプラスミン酵素により分解されてできる副産物で、線溶により増えます。
また、フィブリノーゲンも血液凝固因子で、線溶により分解されて減少します。
従って、線溶現象が起きた場合には血清FDPが高くなり、フィブリノーゲンは分解され減少するのです。

血小板の減少

血小板数の減少は主に、生産低下、分離増加、消費増加、破壊亢進により起こりますが、DICでは多数の血栓形成による消費増加(血小板を使い果たす)によって起きます。
なお、血液の凝固反応は血小板の凝集(血小板同士がくっつき凝集塊と呼ばれる塊になる)を引き起こし、血小板機能の不活化が起こり、血液凝固因子の減少と相まって大量出血を引き起こします。

プロトロンビン時間の延長

プロトロンビン時間(Prothrombin Time)のプロトロンビンは血漿中にある血液凝固の第2因子であり、同因子が肝臓で作られるまでの時間を専用の計器で測定する事で、外因系の凝固因子の異常を見つける事ができます。
プロトロンビンが作られるまでに時間がかかる事は血液凝固の異常を意味します。
※外因系とは血管外で働く血液凝固因子を意味します。

赤血球沈降速度の遅延

赤血球沈降速度は赤血球が沈降する速度ですが、線溶現象が起きると、血漿中のフィブリノーゲンなどが減少することで赤血球が軽くなり、沈む速度が遅くなります。

治療方法は?

治療は原則として、抗DIC療法(輸液、輸血、凝固因子補充、蛋白分解酵素阻害薬投与、昇圧薬投与、酸素投与)を行いつつ、並行して原因となっている基礎疾患の根治治療を実施します。
なお、多くの場合は、二次線溶により大量出血が起きるため、抗ショック療法(気道・体位の確保、酸素投与、血管確保、輸液、輸血)も併せて行います。
原因疾患の根治治療としては、子宮摘出などの外科的治療が含まれ、早期の根治治療により予後が良好である場合もあります。

公開日時:2017-06-25 23:05:59

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