「産科ショック」とは?ショックの5徴の全てが現れる前の治療が鍵
産科ショックとは?
ショックは何らかの理由で急激に血圧が下がり、生命が危機的な状態に陥った状態であり、産科ショックは広義には妊婦がショック状態に陥った状態を指しますが、一般的には妊娠や分娩時の病的状態に起因したショックを言います。
原因は?
産科ショックの内、約90%は出血性ショックで、残りの10%が非出血性ショックです。
つまり、殆どの場合は、弛緩出血など、何らかの理由で大量に出血することで起こります。
産科ショックの主な原因は以下のとおりです。
出血性ショック | 妊娠初期 | 流産、異所性妊娠(子宮外妊娠) |
---|---|---|
妊娠中期 | 前置胎盤、常位胎盤早期剥離 | |
妊娠末期 | 子宮破裂、子宮内反症、弛緩出血、子宮頸管裂傷、癒着胎盤 | |
非出血性ショック | 羊水塞栓症、肺血栓塞栓症、仰臥位低血圧症候群、敗血症性ショック |
※敗血症性ショックは産褥熱などで引き起こされます。
特に母体死亡に繋がる重篤な症状に陥りやすいのは、常位胎盤早期剥離や羊水塞栓症、敗血症性ショックなどの血液凝固能が亢進する産科DICを伴う疾患です。
また、異所性妊娠や前置胎盤、常位胎盤早期剥離などの疾患では、母児救命のための帝王切開術を実施した際に、大量出血により出血性ショックに陥る可能性があります。
初期症状は?
ショックの典型的な症状として、以下の5つがショックの5徴として知られており、診断の目安になっています。
以下のどれか1つでも症状が現れた場合は、原因究明や治療に取り掛かります。
※すべての徴候が現れてからでは手遅れ(救命が困難)になります。
- 蒼白
- 虚脱
- 冷汗
- 脈拍触知不能
- 呼吸不全
まず、顔面蒼白や四肢の冷感、頻脈、冷汗を呈し、次に呼吸不全やチアノーゼ、血圧低下、末梢血管虚脱などの症状が現れます。
出産や胎児へのリスクは?
ショックを来した場合、母体の生命は危険な状態です。
児の救命については、ショックの原因となっている疾患にもよりますが、胎児の胎外生活が可能な場合は、緊急帝王切開などの急速遂娩法を実施して児の救命を行います。
但し、例えば常位胎盤早期剥離の場合、低酸素状態に陥り胎児死亡に至る可能性が非常に高くなります。
治療方法は?
産科ショックの診断フローチャートに基いて治療が行われます。
主な治療方法は原因疾患の除去、抗ショック療法、抗DIC療法です。
原因疾患の除去
出血性ショックの場合、まず止血が行われます。
また、敗血症性ショックでは感染巣の切開および排膿、ドレナージ(細いチューブ(ドレーン)を使って体内に溜まった血液を排出すること)と抗生物質投与が実施されます。
重篤な場合は、γ-グロブリン製剤(特定の抗体を多く含んだ免疫製剤)の投与も行います。
抗ショック療法
抗ショック療法は末梢循環不全の改善と組織の酸素化の維持のために実施されます。
出血性ショックの場合、以下を実施します。
- 止血
- 気道確保・酸素投与
- 血管確保・輸液
- 輸血
輸血の目安はショックインデックス(SI)1.5以上または、産科DICスコア8点以上とされています。
関連記事:「ショックインデックス」のガイドラインと「産科DIC」のスコア表
もし、心停止や呼吸停止に陥った場合は、心肺蘇生法を実施します。気道確保では、静脈還流を増加させるためにトレンデレンブルグ体位(仰向けの状態で頭部より腰部を高く保つ体位)をとります。
抗DIC療法
抗DIC療法として以下の治療を実施します。
- 輸液
- 輸血
- 凝固因子補充
- 蛋白分解酵素阻害薬投与
- 昇圧薬投与
- 酸素投与
なお、この内、輸血は必須になります。
危機的出血の宣言
輸血を行ってもショック状態が持続する(ショックインデックス、産科DICスコアが改善しない)場合、「危機的出血の宣言」を行い、ガイドラインに従い処置を行います。
公開日時:2017年06月04日 22時24分
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