「血栓性静脈炎」(深部静脈血栓症)とは?肥満や高年出産の人は要注意

カテゴリ:出産の基礎知識
タグ:産褥期異常

血栓性静脈炎とは?

血栓性静脈炎は妊娠に伴い血液凝固能が亢進し、分娩後、血管内皮が障害されることで、血液がうっ滞し、血栓が形成されることで発症します。
血栓の発生部位によって(表在性)血栓性静脈炎深部静脈血栓症に分類されます。
妊娠や産褥期では一般的に(表在性)血栓性静脈炎の方が多く起きます。
但し、近年は食生活や生活スタイルの変化により深部静脈血栓症が増加傾向にあります。

表在性血栓性静脈炎

足の大腿(太もも)から腓腹部(ふくらはぎ)にかけてある表在静脈(皮膚の表面に近い位置にある静脈)に発症する血栓です。
皮膚に炎症が起こり、皮膚の色が変わったり、痛みを生じます。
なお、通常は血栓が流れる事はなく、肺血栓塞栓症の心配はありません。

深部静脈血栓症

血栓性静脈炎は静脈にできた血栓が静脈や皮膚に炎症を引き起こすのに対して、深部静脈血栓症は下肢や骨盤内などの深部静脈に血栓が生じる疾患です。
この深部静脈に生じた血栓が取れて流れ(遊離)、肺動脈に達して詰まらせると肺血栓塞栓症を生じさせます。

原因は?

左総腸骨静脈(ひだりちょうこつじょうみゃく)の腹側に右総腸骨動脈(みぎちょうこつどうみゃく)が走行しているために、仰臥位によって左総腸骨静脈が圧迫され、血流が停滞し、左側に血栓が起きやすくなります。
特に、肥満、高年の産褥婦、帝王切開などの場合に多く発症します。
なお、最も発症しやすい時期は産褥1日~1週間です。

左総腸骨静脈

左総腸骨静脈は腰椎の中を走っている静脈で、狭い腰椎の中を左総腸骨静脈と右総腸骨動脈の2つの血管が通っています。
また、右総腸骨動脈は左総腸骨静脈の上を乗り越えるように走っています。
このため左総腸骨静脈は圧迫されやすく、狭窄や閉塞による血液のうっ滞や血栓が起こりやすいのです。

初期症状は?

主な症状は以下となります。

疾患症状
片側の下肢の疼痛・腫脹下肢の静脈の張り(怒張)や痛み(自発痛)が現れる
有痛性白股腫血栓性静脈炎が原因となり二次的に生じる下肢の激痛性の浮腫で、皮膚が蒼白色になり、高熱が出る
ホーマンズ(Homans)徴候膝を屈曲位として足部を背屈(足首を甲の方に曲げる)すると、腓腹部(ふくらはぎ)に疼痛が現れる症状で、特に下肢深部静脈血栓症の場合に多く見られる

出産や胎児へのリスクは?

深部静脈血栓症は、悪化すると妊婦死亡の主要要因である、重篤な疾患の肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)を引き起こす事があります。

予防方法は?

予防方法としては、以下のリスクレベルに応じて予防方法を実施します。

リスクレベル産婦人科手術・リスク要因予防法
低リスク(妊娠)経腟分娩
  • 早期離床
  • 積極的な運動
中リスク(妊娠)帝王切開術後
  • 弾性ストッキング
  • 間欠的空気圧迫法
高リスク(妊娠)
  • 高年肥満妊婦の帝王切開術後
  • 静脈血栓塞栓症既往や血栓性素因のある妊婦の経腟分娩
  • 間欠的空気圧迫法
  • 低用量未分画ヘバリン
最高リスク(妊娠)
  • 静脈血栓塞栓症既往
  • 血栓性素因のある妊婦の帝王切開術後
  • 低用量未分画ヘバリンと間欠的空気圧迫法の併用
  • 低用量未分画ヘバリンと弾性ストッキングの併用

検査方法は?

超音波検査やCT、MRI、像脈造形などで検査を行います。

治療方法は?

主な治療方法は以下となります。

  • 抗凝固薬(ヘバリン・ワルファリン)の投与
  • 血栓溶解薬(ウロキナーゼ)の投与
  • 抗菌薬の投与

公開日時:2017年07月09日 11時10分

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