「鉗子分娩」とは?実施条件や意外な母児損傷(後遺症)の原因とは?

カテゴリ:出産の基礎知識
タグ:急速遂娩法

鉗子分娩とは?

鉗子分娩は児頭を鉗子で挟み、牽引して児頭を娩出する急速遂娩法です。
一般的にはネーゲレ(Naegele)鉗子が用いられますが、他にシンプソン(Simpson)鉗子やキーランド(Kielland)鉗子などがあります。
鉗子の児頭を挟む部分全体を鉗子匙(かんしひ)と呼び、左右の匙(さじ)をそれぞれ右葉、左葉と呼びます。

どのような場合に実施するか?

分娩第2期において、分娩が遷延あるいは停止した場合に、胎児を速やかに娩出しなければならない場合に実施します。
※分娩第2期は子宮口が全開大してから胎児が娩出されるまでの期間です。
この分娩第2期における急速遂娩法としては、鉗子分娩の他に吸引分娩があります。
通常はより母児の損傷リスクが低く、容易である吸引分娩が主に用いられます。
しかし吸引分娩においては、牽引時に滑脱が起きる場合があり、もし複数回の滑脱が発生した場合は、確実に早急な分娩を実施するために鉗子分娩が用いられます。
※吸引分娩では複数回の滑脱(吸引カップが児頭から外れる)が発生した場合、それ以上吸引分娩を継続しないルールになっています。

実施条件

鉗子分娩を実施するためには、次の条件を満たしている必要があります。

  • 妊娠34週以降
  • 児頭骨盤不均衡がない
  • 子宮口が全開大している
  • 破水している
  • 児頭が嵌入している(Station(下降度)+2以上)

※この条件は吸引分娩と共通です。

更に、鉗子分娩は原則として以下の条件下にある場合にのみ実施します。

  • 児頭の状態が出口部、低在、低い中在にある
  • 前方後頭位である
  • 矢状縫合が黄経に近い(母体前後径と児頭矢状縫合の角度が45度未満)

鉗子分娩を選ぶ基準は?

急速遂娩法として主流である吸引分娩は比較的容易で、母児への損傷のリスクは低いものの、牽引時に吸引カップが児頭から滑脱する事があり、滑脱が複数回起きた場合、ルール上それ以上は吸引分娩は継続できません。
それに対して鉗子分娩では滑脱の心配はなく、牽引力は圧倒的に強く、通常は1回の牽引のみで児頭の娩出が可能であり、確実な娩出が行えます。
その反面、鉗子分娩は吸引分娩に比べて手技が難しく、母児損傷のリスクが高い急速遂娩法になり、使用される頻度は年々減ってきています。
また、鉗子分娩では、吸引分娩に比べて高い技能(手技)が要求され、経験の浅い(技能が低い)医師では胎児への後遺症(顔面損傷、顔面麻痺等)を招く場合があり、訴訟になるケースもあります。

実施方法は?

  1. 内診で子宮口の開大度、胎児の下降度(Station)、回旋状態、大泉門と小泉門の位置、産瘤の状態を確認します。
  2. 導尿(尿道口からカテーテルを挿入て膀胱内の尿を排出する事)により膀胱を空にします。
  3. 実施前に鉗子で挟んだ状態をイメージし、シミュレーションを行います。
  4. 左葉、右葉の順に腟に挿入し、鉗子匙の湾曲を児頭のカーブに沿うように児頭と腟壁の間に滑り込ませます。
  5. 鉗子匙が胎児の耳の前の頬に当たる事を確認します。
  6. 両葉の鉗子柄(葉の下の柄の部分)をゆっくり近づけ、接合部が一致した事を確認の上、陣痛の間欠時にゆっくり牽引し、滑脱がない事を確かめます。
  7. 次の陣痛発作が始まるまでそのまま待機します。
  8. 陣痛が開始すれば、接合部を一致させて、陣痛発作・怒責に合わせて牽引します。
  9. 吸引分娩と同様に児頭の位置に合わせて牽引する方向を変えながら牽引します。
  10. 児の前額か眉間が会陰に達したら鉗子分娩は終了です。
  11. 挿入と逆の手順で鉗子を取り除きます。

※鉗子分娩は1回の牽引で娩出させる事が大前提となります。
※断続的、衝動的、体重をかけての牽引はしてはいけません

胎児や母体へのリスクは?

胎児や母体へのリスク(後遺症)として以下が挙げられます。

対象リスク(後遺症)
胎児児顔面損傷、外傷性顔面麻痺、頭蓋内出血
母体軟産道損傷(腟壁裂傷、会陰裂傷)

※鉗子分娩では、腟内に鉗子を挿入するため、児頭の大きさに加え、鉗子の厚みも加わるため、腟壁や会陰などの軟産道(子宮頸部、腟、外陰などの胎児の通り道)に損傷が起きるリスクが高まり、それに伴う異常出血のリスクもあります。
※特に鉗子分娩では1度の牽引で娩出するため、会陰に急激な圧力がかかり、多くの場合で会陰裂傷が発生します。
※胎児へのリスクとしては、鉗子の圧力による顔面損傷や稀に外傷性顔面麻痺が起きるリスクがあります。

発生する確率は?

鉗子分娩の実施頻度は吸引分娩に対して減少傾向にあり、0.2%程度です。

公開日時:2017年04月30日 18時14分

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