「尿路感染症」とは?妊娠後期に子宮が右側に移動することで起きる?
尿路感染症とは?
尿路感染症は、尿路の圧迫や膀胱の低緊張状態などによる、尿路からの感染症(無症候性細菌尿・急性膀胱炎・腎盂腎炎など)の総称です。
無症候性細菌尿
無症候性細菌尿は、無症状にも関わらず、尿中細菌数が105/mL以上の状態です。
問題になるのは、無症候性細菌尿を呈している場合、急性腎盂腎炎の発症リスクが高くなる事です。
無症候性細菌尿がない妊婦の急性腎盂腎炎の発症率は約1%なのに対し、無症候性細菌尿がある場合の発症率は20%に跳ね上がります。
急性膀胱炎
殆どが大腸菌などのグラム(Gram)陰性桿菌の膀胱への感染で引き起こされます。
腎盂腎炎
多くの場合、妊娠中期以降で罹患しますが、無症候性細菌尿がある妊婦では妊娠初期での罹患の可能性もあります。
治療が遅れた場合、腎機能障害や敗血症による多臓器不全を招き、重篤な状態になる可能性があり、早期発見、早期治療が必要になります。
原因は?
主な要因として尿路の圧迫と膀胱の低緊張状態の2つがあります。
尿路の圧迫
妊娠後期には子宮が増大し、それにより尿管が圧迫されることで、水腎症や水尿管症が起こりやすくなります。
また、大腸の主要な部分である、腹部の左側の結腸から直腸へかけてS字を描くように繋がっている部分(S状結腸)が緩衝となったり、子宮が右側に移動することで特に右側の尿路の圧迫症状が強くなります。
さらに、下半身から右心房にかけての大きな静脈(直接下大静脈)に還流する右側卵巣静脈の拡張も、右尿管の圧迫の要因になります。
膀胱の低緊張状態
もう一つの要因としては、妊娠中に増加するプロゲステロンによる尿管の筋肉(尿路系平滑筋)の弛緩や、妊娠期の膨張した子宮からの圧迫により、膀胱が機能的な低緊張状態となり、それが残尿や膀胱尿管逆流を引き起こす事も挙げられます。
初期症状は?
急性膀胱炎は主に以下の症状が現れます。
- 排尿時の痛み(排尿痛)
- 頻尿
- 尿混濁
- 残尿感
腎盂腎炎では主に以下の症状が現れます。
- 38℃以上の高熱
- 背中の痛み
- 膿尿
- 細菌尿
出産や胎児へのリスクは?
急性膀胱炎などで、重い後遺症が残ったり命に関わるような事は通常はありませんが、腎盂腎炎を発症した場合、治療が遅れ、敗血症を来せば、多臓器不全による母体の生命の危険性があります。
発生する確率は?
無症候性細菌尿は全妊婦の2~7%に見られます。
急性膀胱炎は全妊婦の1~2%で発症します。
腎盂腎炎は全妊婦の1~2%で発症し、特に右側で多く発症します。
予防方法は?
早期発見のための観察ポイント
予防はまず、初期症状の早期発見のための状態の観察が大切になります。
特に、以下のような症状が現れれば注意が必要です。
- 発熱
- 脈拍の上昇(頻脈)
- 倦怠感
- 悪寒
- 排尿痛
- 頻尿
- 残尿感
- 尿道や会陰から肛門部にかけての炎症
病院側での予防措置
当然のことですが、病院側の以下のような感染の予防措置の徹底も大切になります。
- 遷延分娩や急速な分娩、巨大児分娩などの場合の導尿時の無菌操作の徹底
- 外陰部に触れる場合の手袋の着用の徹底
- 助産師の手洗いの徹底
※遷延分娩などの場合、一般的に導尿による排尿を行いますが、無菌処理が十分でないとその際に感染します。
妊産婦自身による予防措置
妊婦・褥婦自身による以下のような感染防止の心がけも大切になります。
- 排泄時の手洗いや外陰部を清潔に保つ事を徹底する
- 十分な水分補給(循環血液量の増加と利尿の促進)
- 十分な栄養補給と休養(炎症の修復と回復の促進)
- 処方された抗菌薬はきちんと服用する
検査方法は?
主に尿検査による血尿や膿尿、細菌尿などの有無で診断します。
治療方法は?
無症候性細菌尿は抗生物質(ペニシリン系、セフェム系、マクロライド系)を投与します。
急性膀胱炎は菌を洗い出す(Wash out)ための水分摂取と抗生物質の投与による治療になります。
腎盂腎炎の場合は入院が必要になり、輸液による抗生物質の投与による治療が行われます。
公開日時:2017年07月16日 11時42分
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