ユーザー名:guest  赤ちゃんの名前:匿名

「HELLP症候群」の原因と初期症状および治療法

カテゴリ:出産の基礎知識
タグ:分娩合併症

HELLP症候群とは?

HELLP症候群は妊産婦に発症し、妊娠高血圧症候群と共通の病態を有し、溶血性貧血、肝逸脱酵素上昇、血小板減少の3つの徴候が見られる症候群を言います。
※HELLPは溶血性貧血(Hemolytic anemia)、肝逸脱酵素上昇(Elevated Liver enzymes)、血小板減少(Low Platelet count)を省略した造語です。
溶血性貧血、肝逸脱酵素上昇、血小板減少のそれぞれの症状は、母体の生命の危機に関わる重大な症状です。
HELLP症候群はそれらの3つの症状が3つ同時に発生するという症状であり、母体にとって非常にリスクの高い疾患となります。

原因は?

高血圧症などによる血管内皮障害によって血管透過性(物質が血管壁を透過する性質)が亢進され、本来であれば透過しないような分子量の大きな物質が透過することで、血液が濃縮されます。
更に血管内皮の修復のため血小板が活性化されます。
それにより、その過程でトロンボキサンA2(血小板の凝集、血管壁の収縮を引き起こす物質)が放出され、血管攣縮(けっかんれんしゅく)が引き起こされます。
その結果、循環血漿量が減少することで末梢組織循環不全上腸間膜動脈や肝動脈の攣縮が生じ、肝機能異常を起します。

初期症状は?

特に、妊娠末期から産褥3日にかけて、突然の上腹部や季肋部の痛みが生じたり、悪心や嘔吐が起きます。

出産や胎児へのリスクは?

高血圧症などの遺伝的要因を持っている妊婦や経産婦、多胎妊娠のリスクが特に高く、妊産婦の死亡率は0~24.2%周産期死亡率5~37%予後不良率の高い疾患です。
特に子癇(しかん)やDIC(播種性血管内凝固症候群)、常位胎盤早期剥離、腎不全、肺水腫などの合併症を起こすことがあり、重篤な状態に陥る可能性もあります。
また、胎児機能不全の頻度も高いため、帝王切開による急速遂娩を実施することが多いです。

発生する確率は?

全分娩の約0.2~0.6%で発生します。
多くの場合、妊娠中期(妊娠16週)以降に発生します。
また、その内の約90%で妊娠高血圧症候群を合併しています。

予防方法は?

確立された予防方法はありません。

検査方法は?

Sibaiの基準

国際的に共通した診断基準はありません。
一般的には診断基準としてSibaiの基準を用いてHELLP症候群の診断を行います。
Sibaiの基準
溶血
  • 血清総ビリルビン値:1.2mg/dL以上
  • 血清LDH値:600IU/L以上
  • 抹消血液塗抹(標本)において有棘赤血球(acanthocyte)や分裂赤血球(schistocyte)が認められる
肝酵素上昇
  • 血清AST値:72IU/L以上
血小板減少
  • 血小板数:10万/μLより少ない

急性妊娠脂肪肝との見分け方

また、HELLP症候群と急性妊娠脂肪肝を鑑別する場合は、ASTが45IU/Lより高く、LDHが400IU/Lより高い場合において、次の項目で見分けます。

血小板が12万/μLより少ない場合:HELLP症候群の疑いが高い
血小板数が12万/μL以上で、アンチトロンビン(AT)活性が60%より低い場合:臨床的急性妊娠脂肪肝の疑いが高い

注意の目安

さらに、早期発見のため、以下の条件に該当する妊婦は注視し、定期的に血小板数アンチトロンビン(AT)活性(凝固阻止因子)AST/ALT/LDH尿酸を測定します。
  • 妊娠30週以降
  • 上腹部の痛みがある
  • 妊娠高血圧腎症
  • 妊娠33週以降の双胎妊娠
  • 尿蛋白:2+以上
  • 異常な体重増加や減少
  • 妊娠性血小板減少:13万/μLより少ない
  • 妊娠性アンチトロンビン欠乏症(活性:65%より低い)

治療方法は?

妊娠の中断が唯一の治療法になります。
また、娩出後は症状が速やかに改善するのがこの疾患の特徴です。
※HELLP症候群は速やかに改善しますが、出血はしばらく続きます。

疑いの段階では、注視しながら様子を見ますが、妊娠週数によっては早期娩出も検討する場合があります。
分娩は多くは帝王切開ですが軽症の場合は経腟分娩で行います。

胎児機能不全の頻度も高い疾患であり、病院側では胎児心拍モニタリングを厳重に行い、異常事態に備えて赤血球濃厚液や新鮮凍結血漿、血小板濃厚液、蛋白製剤などを準備します。
娩出された胎児は多くの場合、多臓器不全を生じるため集中治療室(ICU)での集中治療や集中管理が必要になります。
適切な管理が行われれば、約1週間で危機的な状況から脱することができます。

なお、母親は出産から1週間は赤ちゃんと接することができず、不安などから強い精神的なストレスを感じる傾向があり、母子愛着形成過程に支障を来さないように、周りのケアも必要です。

公開日時:2017-01-22 16:52:44

このエントリーをはてなブックマークに追加

基礎知識の記事一覧

すべての記事一覧

「分娩合併症」に関する他の記事
  • 「急性妊娠脂肪肝」の原因と初期症状および治療法

    急性妊娠脂肪肝は妊娠末期に発症し、急速に肝不全に至る、母児ともに予後不良の疾患です。

    公開日:2017-07-02

  • 「産科DIC(播種性血管内凝固症候群)」の原因と症状および治療法

    DIC(Disseminated Intravascular Coagulation syndrome)もしくは播種性血管内凝固症候群(はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)は、何らかの基礎疾患によって血液の凝固線溶系の平衡が崩れ、血管内の過凝固と二次線溶が交互に繰り返されて、全身的な微小血栓の形成と出血傾向を来す疾患です。

    公開日:2017-06-25

  • 「産科ショック」の原因と抗ショック療法および抗DIC療法

    ショックは何らかの理由で急激に血圧が下がり、生命が危機的な状態に陥った状態であり、産科ショックは広義には妊婦がショック状態に陥った状態を指しますが、一般的には妊娠や分娩時の病的状態に起因したショックを言います。

    公開日:2017-06-04

  • 「ショックインデックス」のガイドラインと「産科DIC」のスコア表

    産科ショックの内、約90%が出血性ショックであり、この出血性ショックの程度の目安として使用される出血量の評価指数がショックインデックス(SI)です。

    公開日:2017-06-01

  • 「羊水塞栓症」の原因と初期症状および治療法

    羊水塞栓症は分娩時に何らかの原因で比較的多量の羊水成分が母体血中に流入して母体に突発的な呼吸循環不全やショック、DIC(播種性血管内凝固症候群)などを引き起こす症状です。

    公開日:2017-05-28

  • 「HELLP症候群」の原因と初期症状および治療法

    HELLP症候群は妊産婦に発症し、妊娠高血圧症候群と共通の病態を有し、溶血性貧血、肝逸脱酵素上昇、血小板減少の3つの徴候が見られる症候群を言います。

    公開日:2017-01-22

「出産の基礎知識」に関する他の記事
「基礎知識」の見出し一覧

このページのトップに戻る

広告