「癒着胎盤」とは?分娩後30分以内に胎盤が剥がれなければ強制剥離も

カテゴリ:出産の基礎知識
タグ:胎盤異常

癒着胎盤とは?

癒着胎盤は一言で言えば、胎盤が子宮壁から剥がれにくい状態であり、胎盤の絨毛が子宮筋層内に入り込み、胎盤の一部あるいは全部が子宮壁に強く癒着するために起こります。
癒着胎盤により、胎盤の娩出のための胎盤の剥離が困難になり、後産(分娩第3期)が長引き大量出血に繋がる恐れがあります。
胎児の娩出後、30分経っても胎盤剥離の兆候が見られない場合は、医師が直接胎盤を剥がす(胎盤用手剥離と呼びます)場合があります。
なお、分娩前にこの胎盤癒着を把握することはほぼ不可能であり、実際に分娩が始まってから発覚する場合が殆どです。

癒着胎盤の種類

絨毛が子宮筋層と癒着しているだけで子宮筋層に入り込んでいない場合を「楔入胎盤(せつにゅうたいばん)」、絨毛が子宮筋層に侵入している場合を「嵌入胎盤(かんにゅうたいばん)」、絨毛が子宮筋層を貫通している場合を「穿通胎盤(せんつうたいばん)」と呼び、後者ほど重度になります。

原因は?

帝王切開や子宮内膜の過度の掻爬(そうは)、前置胎盤などが原因になります。
子宮内膜を掻爬するとは、子宮内膜を掻き取ることですが、これは一般的に子宮内膜が増殖しすぎ、子宮内膜が異常に分厚くなる症状である、子宮内膜増殖症の対処のために、子宮内膜掻爬術を実施する場合が挙げられます。
また、前置胎盤は胎盤が通常よりも低い位置に付着した状態です。
※前置胎盤と癒着胎盤が合併することを特に癒着前置胎盤と呼びます。
上記に挙げたような要因により、胎盤の絨毛と子宮壁が異常に強く癒着することが、癒着胎盤の原因です。

リスク因子

まとめると、主なリスク因子は以下になります。

  • 帝王切開既往
  • 前置胎盤
  • 子宮内膜増殖症による子宮内膜の掻爬
  • 経産婦

処置方法は?

児の娩出後、30分経っても胎盤が剥がれる様子がない場合、大量出血の恐れがあるため、医師が子宮に手を入れ、手で直接胎盤を剥がします。
その場合は、産婦への疼痛(うずくような激しい痛みの事)を避けるために全身麻酔を実施します。
また、胎盤用手剥離も困難な場合、子宮を全摘出する場合もあります。
もしくは、子宮を温存する場合、子宮動脈塞栓術により子宮への血流を減少させ、大量出血を抑止することや、胎盤組織を変性させるためのメトトレキサート(MTX)という治療を施す場合もあります。
メトトレキサートはく抗悪性腫瘍薬の1つですが、副作用の恐れがあります。例えば悪心や嘔吐、食欲不振をはじめ、口内炎や口角炎、味覚異常が5日目くらいから出現します。
またメトトレキサートの使用時には授乳はできません。

産婦や胎児へのリスクは?

大量出血

癒着胎盤の最大のリスクはこれまでに何度か述べていますが大量出血による産婦のショック死(出血性ショック)です。
これは胎盤が剥離した後、脱落膜血管が破断(胎盤後血腫と言います)することで、出血が起こるためです。
これを避けるために、医師は胎盤用手剥離や子宮全摘出などあらゆる対処を実施します。

感染症

また、胎盤用手剥離は医師が手袋をした上で、産婦の子宮内に手を入れて胎盤を剥がすため、感染症のリスクもあります。

子宮復古不全・悪露

更に胎盤や卵膜が完全に排出されずに残留した場合は、産褥期の子宮復古不全や悪露のリスクもあります。
子宮復古不全は、上述したように胎盤の娩出後は胎盤が剥がれ落ちた箇所から出血し、そして子宮が収縮して元の大きさに戻る事で傷口が塞がり出血が止まりますが、この子宮収縮が遅く、出血が長引く状態を子宮復古不全と呼びます。
また、悪露は子宮内に残留した胎盤や卵膜などが原因で出産から1ヶ月異常出血が続く状態です。
そのため、癒着胎盤の処置後は子宮復古の状態や悪露については、注視する必要があります。

胎児への影響

なお、胎盤の剥離は胎児の娩出後に起こるため、胎児への影響はありません。

発生確率は?

癒着胎盤の発生確率は約0.01%程度で、1万人に1人くらいで起こります。
またその内の約80%が経産婦で発生します。
初産婦と経産婦で発生率が大きく異なるのは、経産婦は過去の出産で子宮が大きく変化したり、子宮内膜が傷ついている可能性が高くなるためと考えられます。

帝王切開の場合

更に、帝王切開の場合は、帝王切開の回数に比例して癒着胎盤の確率が高くなる事が知られています。

前置胎盤との併発

もちろん初産婦の場合でも、原因で述べたように前置胎盤が併発している場合、癒着胎盤の可能性は高まります。
前置胎盤が起きている場合、癒着胎盤になる確率は5~10%と大きく高まります。
そのため、前置胎盤と診断された場合、事前に超音波断層法やMRIを使用して癒着胎盤の疑いがあるかを調べたり、あるいは癒着胎盤の発生を予期した対応を検討する事もできます。
また、前置胎盤の場合や、経産婦(特に帝王切開をした人)は、医師は事前に子宮全摘出の可能性を妊婦に伝え、説明したり、妊婦側もそうなった場合の心構えをしておく事ができます。

母体の死亡例

実際に、過去には癒着胎盤の20代の女性が帝王切開で出産後に死亡した例もありますので、現実的なリスクとして、子宮全摘出や出血性ショックによる死亡の可能性がある事も認識しておく必要もあるでしょう。
なお、癒着胎盤診断された人の死亡確率は7.4%、特に穿通胎盤の場合は10%ときわめて高いのが現状です。

公開日時:2015-11-10 22:31:32

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