「急性妊娠脂肪肝」とは?一般的な脂肪肝との違いは脂肪滴の大きさ?
急性妊娠脂肪肝とは?
急性妊娠脂肪肝は妊娠末期に発症し、急速に肝不全に至る、母児ともに予後不良の疾患です。
原因は?
ミトコンドリアでの脂肪酸のβ酸化の過程の障害が一因と考えられていますが、根本原因は分かっていません。
肝細胞に小さな脂肪滴(小脂肪滴)が無数に付着することで引き起こされます。
脂肪滴とは?
脂肪滴は小腸で吸収され、肝臓で蓄えられた脂肪です。
肝臓で脂肪滴が蓄えられる事自体は正常な働きですが、大量に蓄えられた場合、脂肪肝(肝臓での脂肪含量が10%を越えた場合)となります。
なお、肥満や糖尿病などの血中遊離脂肪酸の増加によって引き起こされる脂肪肝では大きな脂肪滴となるのに対し、急性妊娠脂肪肝では小さな脂肪滴となるのが特徴です。
脂肪滴の大きさ | 主な疾患 | 予後 |
---|---|---|
小脂肪滴 | リポ蛋白合成障害、ミトコンドリア障害 | 急性の経過をとり予後不良 |
大脂肪滴 | 血中遊離脂肪酸の増加(肥満や糖尿病) | 慢性の経過をとり予後良好 |
リスク因子
妊娠に特異的な症状であり、以下の場合に発症率が高い事が分かっています。
- 初産婦
- 多胎
- 男児の妊娠
- 妊娠高血圧症候群
特に急性妊娠脂肪肝の内の約半数が妊娠高血圧症候群を合併しており、妊娠高血圧症候群との合併ではHELLP症候群と共に注意が必要な疾患です。
※HELLP症候群の場合も妊娠高血圧症候群との合併率が90%と高く、急性妊娠脂肪肝はHELLP症候群との鑑別が難しい疾患です。
初期症状は?
初期症状
主な初期症状は以下となります。
- 倦怠感
- 食欲不振
- 悪心
- 嘔吐
- 腹痛(右上腹痛・心窩部痛(しんかぶつう))
数日後に現れる症状
また、初期症状から数日後には以下の症状が現れます。
- 黄疸
- 肝機能障害
進行した場合の症状
疾患が進行した場合、以下の症状が現れ、死に至る場合もあります。
- 肝不全
- 肝性昏睡
- 低血糖
- 消化管出血(血液凝固異常によるもの)
- 腎不全
出産や胎児へのリスクは?
母体
現在では医療技術の向上により周産期死亡率は減少していますが、それでも死亡率は10%程度はあります。
母体死亡の原因となるのは、主に感染症、大量出血、呼吸不全、腎不全、膵炎、消化管出血によるものです。
胎児
胎児に関しては、分娩時に胎児心拍異常による胎児機能不全(胎児死亡)が起きるリスクがあります。
発生する確率は?
発症の頻度は13,000人に1人の割合で発症します。
※早期診断で判明した例も含めた場合は15,000人に1人です。
予防方法は?
根本原因は分かっておらず、有効な予防方法はありません。
重症化の予防のためにできることは、早期発見、早期治療のみとなります。
検査方法は?
初期症状はHELLP症候群と似ており、まずHELLP症候群との鑑別が必要になります。
HELLP症候群と同様に根本原因は不明であり、根治治療の方法はないため、可能な限り早期発見、早期治療が必要となります。
HELLP症候群との見分け方
HELLP症候群と見分けるためには、Sibaiの基準という指標が用いられます。
具体的には、次の測定値を基に鑑別します。
上の2つはHELLP症候群も同じですが、下の2つは急性妊娠脂肪肝の場合の特徴です。
※血小板が12万/μLより少ない場合はHELLP症候群になります。
- ASTが45IU/Lより高い
- LDHが400IU/Lより高い
- 血小板数が12万/μL以上
- アンチトロンビン(AT)活性が60%より低い
つまり、急性妊娠脂肪肝ではHELLP症候群のように血小板数は減少せず、アンチトロンビン活性が低下します。
※アンチトロンビンは肝臓で生成される血液の凝固阻害因子(血液を固まりにくくする)です。
治療方法は?
まず、上述したように現時点では根治治療の方法はなく、有効な治療方法はありません。
なお、HELLP症候群と同様に分娩により劇的に改善する疾患であるため、現在は分娩が唯一の治療方法となっています。
分娩の方法は、重症度によって異なり、一般的には緊急帝王切開による分娩となりますが、軽度の場合は経腟分娩が実施される場合もあります。
帝王切開時にはHELLP症候群と同様に、血液製剤(赤血球濃厚液、新鮮凍結血漿、血小板濃厚液、蛋白製剤など)を準備しておきます。
公開日時:2017年07月02日 17時54分
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