「羊水塞栓症」とは?子宮収縮薬が羊水の母体血中への流入を招く?

カテゴリ:出産の基礎知識
タグ:分娩合併症

羊水塞栓症とは?

羊水塞栓症は分娩時に何らかの原因で比較的多量の羊水成分が母体血中に流入して母体に突発的な呼吸循環不全やショック、DIC(播種性血管内凝固症候群)などを引き起こす症状です。
なお、羊水塞栓症はまだ病因が判明しておらず、根本的な治療方法がなく、母体死亡率が極めて高い、極めて重篤な疾患です。

羊水成分とは?

羊水成分には羊水の他に、羊水胎児由来細胞や胎便などが含まれます。

原因は?

羊水塞栓症の病因は胎便など胎児成分も含む羊水成分や、液性成分の関与が疑われていますが、まだ明確な病因は判明していません。
但し、疾患の発端として子宮内圧亢進が関係していることが分かっています。
子宮内圧亢進の主なリスク因子は以下となります。

  • 過強陣痛
  • 子宮収縮薬

この他に痙攣、意識消失、羊水混濁、原因が不明な発熱も注意が必要です。

どのように発生するか?

羊水塞栓症の発生機序は以下となります。

1.子宮内圧亢進と血管破錠

過強陣痛や子宮収縮薬などによって子宮内圧が上昇し、卵膜や子宮内膜面で血管が破錠します。
※破錠は具体的には、子宮下部裂傷常位胎盤早期剥離子宮破裂子宮頸管裂傷帝王切開術、羊水穿刺(ようすいせんし)などの併発を意味します。
それにより羊水が母体血中に流入します。

2.肺高血圧症を発症

胎便や生理活性物質(プロスタグランジン)により、免疫細胞(単球・好中球)が活性化し、情報伝達物質(サイトカイン)が大量に放出され、肺血管が攣縮され、肺高血圧症を発症します。
また、胎便・胎脂による肺小血管の機能的閉塞によっても肺高血圧症を発症します。

3.DIC(播種性血管内凝固症候群)の発生

血液の凝固反応を起こす物質(組織トロンボプラスチン)や肺表面活性物質(肺サーファクタント:肺胞を膨らみやすくするために肺胞内に分泌される物質)により血液の凝固能亢進・血小板凝集が起こり、DICが発生します。
DICによって臓器障害・出血傾向が発生します。
肺高血圧症により心臓の右心室の急激な機能不全(急性肺性心)や各臓器、組織に血液を循環できない症状(循環不全)、ショック、急性呼吸不全(ARDS)が起き、多臓器不全を発症します。 そして多臓器不全により死亡します。

初期症状は?

典型的な症状として、破水後に急激な呼吸困難が起きます。
その他にも以下の症状を発症する場合もあり、重篤な場合では数分で死に至る場合もあります。

  • チアノーゼ
  • 胸内苦悶
  • 腰痛
  • 痙攣
  • 急激なショック症状
  • 出血

続発症状

続発する症状としては以下があります。

  • 出血傾向
  • 肺水腫
  • 気管支痙攣

出産や胎児へのリスクは?

母体死亡率は60~80%と非常に高い疾患です。
分娩前に発症した場合は、母体の救命が優先され、急速遂娩方が実施されます。
具体的には子宮口全開大前の場合は帝王切開術、子宮口全開大後の場合は鉗子分娩や吸引分娩が実施されます。

発生する確率は?

発生する確率は、全分娩の2~3万例に1例と稀です。

予防方法は?

病因は不明であり、発症を予知することができず、確立された予防方法はありません。

検査方法は?

母体末梢血中の亜鉛コプロポルフィリン(Zn-CP)シアリルTn抗原(STN)の胎便由来の成分から確定診断が行えます。

治療方法は?

病因が不明であるため根本治療の方法はありません。
対症療法としての治療法としては、酸素投与による気道確保抗ショック療法抗DIC療法があります。

公開日時:2017年05月28日 19時43分

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