「胎児心拍数」の正常値と「胎児機能不全」の診断基準
胎児の心拍数から分かることとは?
胎児の良好な状態や胎児機能不全の診断のために、胎児心拍数は重要な情報です。
胎児の心拍数の測定は分娩の際に胎児が子宮収縮に伴う低酸素状態に耐えうるかを判断するために実施します。
胎児心拍数図をもとに評価し、良好な状態を「reassuring FHR pattern」(胎児の健康が保証されるパターンという意味)あるいは「well-being」と診断します。
※FHRは「Fetal Heart Rate」(心拍数)の略です。
また、胎児の心拍数が基準値よりも少ない場合(徐脈)などから、胎児機能不全である事が判明する事があります。
検査方法は?
胎児心拍数の検査方法には以下の2種類があります。
NST(ノンストレステスト)
子宮収縮がない(胎児へのストレスがない)状態でのテストで、こちらが一般的なテスト方法です。
妊娠経過が順調な場合は妊娠34~37週頃から実施します。
胎児心拍数を40分間測定し、妊娠32週以降では20分間に15bpm以上で15秒以上継続する一過性頻脈が2回以上あれば、胎児の健康状態は良好(reactive)と診断されます。
※40分間測定するのは胎児の睡眠と覚醒のサイクルが約20分であり、覚醒時に一過性頻脈が現れるためです。
※bpmは「beats per minute」の略であり、1分間の心拍数を表します。
CST(コントラクション・ストレステスト)
乳頭刺激やオキシトシンの静脈への投与により人為的に軽い子宮収縮(ストレス)を誘発させてテストを行う方法です。
通常はNSTではreactiveの診断が行えなかった場合にのみ実施します。
子宮の収縮時には低酸素状態となるため、低酸素状態での胎児の心拍数の変化をテストします。
適切な子宮収縮(10分間に3回)または過剰な子宮収縮の状態で遅発一過性徐脈や変動一過性徐脈が見られなければ陰性(negative)と診断されます。
※オキシトシンは陣痛時に子宮を収縮させるために放出され、陣痛促進剤としても使用されるホルモンです。
良好な状態かを判断するガイドラインは?
各項目の詳細については後述しますが、良好な状態の典型例としては、以下の4つが揃っている事です。
- 胎児心拍数基線が正常値(110~160bpm)
- 胎児心拍数基線細変動が正常値(6~25bpm)
- 一過性頻脈がある
- 一過性徐脈がない
しかし、妊娠期間中や分娩時において一貫してこのような良好な状態が維持されることは実際にはありません。
従って、通常は、心拍数だけではなく、他の評価方法と組み合わせて良好であるか、胎児機能不全であるかの判断を行います。
そのため、擬陽性の診断が下されることも多いのが現状です。
胎児心拍数基線とは?
胎児の心拍数は10分間の平均心拍数を胎児心拍数基線として表します。
正常値は110~160bpmで5の倍数で表記する決まりになっています。
胎児心拍数基線が110bpmを下回る場合は徐脈、160bpmを上回る場合は頻脈になります。
胎児心拍数基線細変動とは?
妊娠中は子宮の収縮はないため、基本的に胎児の心拍数の変動は起こりませんが、分娩時においては、子宮の収縮に伴い、胎児の心拍数基線が変動することがあり、1分間に2サイクル以上の胎児心拍数の変動があり、且つ、振幅と周波数に規則性がない場合を胎児心拍数基線細変動と言います。
変動の振幅の大きさは、肉眼で認められない細変動消失、肉眼で判別できる、減少(5bpm以下)、中程度(6~25bpm)、増加(26bpm以上)の4つの程度に分類されます。
なお、減少や消失が後述する徐脈と共に見られる場合、原因がアシドーシスか否かを診断する必要があります。
※アシドーシスは胎児の血液中に過剰な酸が蓄積する(pHが下がる)ことを意味し、pH7.0未満でアシドーシスと判断します。
つまり胎児の心拍数の状態は、胎児心拍数基線と胎児心拍数基線細変動の両方の情報から判断します。
一過性頻脈とは?
胎児の心拍数が、開始から頂点までが30秒未満の急速な増加があり、且つ、心拍数増加の頂点までが15bpm以上、心拍数が戻るまでが15秒以上2分未満の状態を指します。
妊娠32週頃からの胎児に見られ、これは中枢神経系の酸素化と心臓の反応性が正常であることを示しており、健康である事(reassuring FHR pattern)を意味します。
一過性徐脈とは?
子宮の収縮に伴い、絨毛間腔に流入する血液が低下することで、胎児の心拍数が減少します。
一過性徐脈は心拍数の減少開始から最下点までゆるやかに低下し、元に戻るまでの間の心拍数低下時において、子宮収縮の最強点(最も収縮した時)と徐脈の最下点のズレを評価するものです。
早発一過性徐脈とは?
上記の子宮収縮の最強点と徐脈の最下点が一致する状態を意味し、これは胎児が正常(良好)な状態です。
遅発一過性徐脈とは?
子宮収縮の最強点より、徐脈の最下点が遅れている状態を示します。
つまり、子宮が収縮しきり、元に戻り始めてからも、胎児の心拍数の低下が継続し、少し遅れて心拍数が戻り始める状態です。
これは通常、胎児低酸素症が要因と考えられ、基線細変動が認められる場合は、迷走神経刺激によるもの、基線細変動の減少あるいは消失を伴う場合、胎児の心筋の低下が考えられます。
後者の場合、胎児予備能力の低下を示唆するものです。
変動一過性徐脈とは?
15bpm以上の心拍数減少が急速に起こり、元に戻るまでに15秒以上2分未満かかる状態です。
これは、分娩時に20~50%の胎児で起こり、珍しい事ではありませんが、一過性徐脈の持続時間が60秒以上、心拍数最下点が70bpm未満である場合、高度変動一過性徐脈と診断され、胎児機能不全(non-reassuring fetal status)と診断されます。
遷延一過性徐脈とは?
心拍数の減少が15bpm以上で、開始から元に戻るまで2分以上10分未満の状態です。
胎児の良好、不良の評価で重視する所見の優先順位は?
良い場合、悪い場合の判断材料の優先順位は以下のとおりです。
※上位のものほど優先度が高い
良好であることを示す所見
- 一過性頻脈がある
- 心拍数基線細変動が正常範囲である
- 心拍数基線が正常範囲である
- 一過性徐脈がない
不良であることを示す所見
- 重度徐脈がある
- 心拍数基線細変動が消失
- 不良な一過性徐脈(遷延一過性徐脈、遅発一過性徐脈)がある
- 頻脈である
- 一過性頻脈の消失
公開日時:2015年11月04日 17時48分
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