「B型肝炎ウイルス(HBV)」とは?母子感染防止プロトコルって?

カテゴリ:妊娠の基礎知識
タグ:母子感染症

B型肝炎とは?

B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)の感染による一過性感染持続感染がありますが、一般的には一過性の急性肝炎を引き起こします。
但し、3歳歳未満など免疫が未発達な時期における感染では、慢性化(キャリア化)することがあります。
妊婦がHBVキャリアであった場合、感染防止策を取らない場合、生まれてくる赤ちゃんの約30%がキャリアになります。
※ちなみに、キャリアであっても、子どもは無症候性キャリアとなり、HBVに感染していても肝炎の症状はなく、思春期~30歳くらいに肝炎を発症します。

赤ちゃんがキャリアになるかどうかは、HBe抗原が関係しており、HBe抗原が陽性の妊婦から生まれた赤ちゃんの約80~90%が持続感染になります。
また、HBe抗原が陰性の妊婦から生まれた赤ちゃんでは、約10%がB型肝炎ウイルスに感染しますが、持続感染になることは稀です。

なお、現在はB型肝炎母子感染防止プロトコルが確立されており、母子感染の予防はほぼ可能になっており、新たな母子感染は殆ど起きていません。

母子感染のリスクがある感染時期とは?

妊婦が急性HBV感染になった場合、その感染時期で母子感染のリスクが異なります。
母子感染の殆どが分娩時の産道感染です。
このため、妊娠初期の感染の場合、感染のリスクのある分娩時期までには抗体ができ、垂直感染のリスクはありません。
しかし、妊娠末期~産褥期での感染では、垂直感染率は約70%と高くなります。

HBs抗原、HBs抗体、HBe抗原、HBe抗体とは?

それぞれの意味は以下のとおりです。
ざっくり言えば、HBs抗原はHBVに感染しているかどうか、HBe抗原はHBVが活発に活動(増殖)しているかどうかが分かります。

HBs抗原

HBs抗原は、HBVの外殻を構成するたんぱく質の1つであり、陽性の場合、HBVに感染していることを示します。

HBs抗体

HBs抗体は、HBs抗原に対する抗体を意味し、陽性の場合、過去にHBVに感染しており、HBVが体内に存在し、免疫ができていることを示します。

HBe抗原

HBe抗原は、HBVが増殖する際に過剰につくられるたんぱく質であり、陽性の場合、HBVによる肝炎を起こす力が強く、血液や体液を介しての他人への感染力も強い事を示します。

HBe抗体

HBe抗体は、HBe抗原に対する抗体を意味し、陽性の場合、HBVの量と感染力が落ちている事を示します。

HBe抗原で分かる感染リスク

このため、汚染源の血液のHBe抗原が陽性であるか否かで、感染リスクが違ってきます。
汚染源がHBe抗原陽性(HBVの感染力が強い)で、感染リスクのある人がHBs抗体陰性(HBVの免疫がない)の場合、殆どの場合で感染が起きます。
なお、妊婦のHBs抗原陽性率は約1%ですが、そのHBs抗原陽者の内のHBe抗原陽性率は約25%です。
つまり、妊婦のHBV感染者の内の4人に1人は感染力が非常に高い状態になります。

感染ルートは?

妊婦への感染ルート

妊婦がB型肝炎に感染する場合の主なルートは垂直感染水平感染に大きく分けられ、それぞれ以下となります。
※垂直感染は親から子への感染(母子感染)、水平感染は個体から個体への感染を意味します。

垂直感染

  • 産道感染
  • 経胎盤感染(胎内感染)

水平感染

  • 性行為
  • 輸血
  • 針刺し事故
  • 予防接種での注射器の使いまわし

なお、近年においては、水平感染の殆どが性行為による感染です。

母子感染のルート

母子感染の感染ルートは胎内感染もありますが、殆どが産道感染です。
なお、母乳による母子感染はありません。
ちなみに分娩については、娩出後に、赤ちゃんに「抗HBs人免疫グロブリン」(血液製剤)を投与することで殆どの場合母子感染を防止できるため、基本的に分娩は帝王切開ではなく、経腟分娩になります。
※新生児への「抗HBs人免疫グロブリン」の投与は母子感染予防プロトコルの一部です。

初期症状は?

一般的には、感染後1~6ヶ月の潜伏期間を経て、全身倦怠感や嘔吐、食欲低下などの、一過性急性肝炎の症状が現れますが、全く症状が現れない場合もあります。

出産や胎児へのリスクは?

感染防止策(B型肝炎母子感染防止プロトコル)を取らない場合、赤ちゃんの約30%がHBVに感染しキャリア化します。
なお、母体側には、出産時におけるリスクは特にありません。

予防方法は?

HBVワクチンを接種して免疫を作り、それが持続していること(HBs抗体陽性であること)を年に1回程度、確認します。

B型肝炎の母子感染の殆どは分娩時に起こります。
「産婦人科診療ガイドライン」では、HBs陽性妊婦に対しては、次の対応を取るように記されています。

  • HBe抗原、肝機能検査を実施し、母子感染のリスクを説明する
  • 内科受診を勧める
  • 小児科と連携して出生児に対してB型肝炎母子感染防止策を行う
  • 授乳を制限する必要はない旨を説明する

検査方法は?

スクリーニング検査として血液検査によって、HBVの抗原を調べます。
まず、HBs抗原検査を行い、陽性の場合は、HBe抗原検査を行います。
もし、HBe抗原が陽性の場合はハイリスク児群、陰性の場合はローリスク児群として扱われます。

治療方法は?

急性肝炎の場合は一般的には抗ウイルス療法は必要なく、無治療で自然にHBVが排除されるのを待ちます。
慢性B型肝炎の場合は、持続感染であるためHBVを体から完全に除去することはできず、抗ウイルス薬の投与でウイルスの増殖を抑えます。

公開日時:2016-05-26 13:35:25

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