「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)」とは?今は母子感染はほぼ防げる?

カテゴリ:妊娠の基礎知識
タグ:母子感染症

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)とは?

HIVは自身のRNAを細胞のDNAに逆転写させて増殖する、レトロウイルスの一種です。
HIVは白血球の免疫の1つである免疫の指令塔と呼ばれるCD4リンパ球(ヘルパーT細胞)に感染し、細胞免疫機構を破壊しながら潜伏し、数年から10年後に後天性免疫不全症候群、いわゆるエイズ(AIDS)を発症します。
なお、HIVの一次検査では約0.3%の妊婦が陽性になりますが、二次検査(確認検査)では、その内の約95%が偽陽性です。
このため、一次検査で陽性反応が出たとしても、殆どは偽陽性であり、取り越し苦労となる事が殆どなのです。
とはいえ陽性反応が出たという事実がある以上、HIV感染に対する不安や社会の根強い偏見があり、確定診断がでるまでの妊婦の精神的負担は相当なものになるでしょう。
妊婦をノイローゼやうつ病に陥らせないためにも、医療機関や家族にとって、この精神面のケアが大切になってきます。

感染ルートは?

母親の感染ルート

母親がHIVに感染する主なルートは以下となります。

  • 性行為
  • 輸血
  • 注射器の使い回し(日本ではほぼ無い)
  • 母子感染

HIVの感染経路で最も多いのは輸血で全体の90%と殆どを占めます。
なお、性行為による感染の割合は0.1~1%程度です。

赤ちゃんの感染ルート

赤ちゃんへの母子感染ルートは以下の3つです。

  • 胎内感染
  • 産道感染
  • 母乳感染

母子感染ルートで最も多いのが産道感染、次に多いのが母乳感染です。
意外かもしれませんが胎内感染の確率は高くはなく、抗HIV薬投与や分娩(帝王切開)、授乳(母乳禁止)を適切に行えば母子感染を防げる可能性が高いのがHIV感染の特徴なのです。
現在では、適切な感染予防を実施すれば、HIVの母子感染の確率は極めて低い状況です。
但し、HIVの感染予防を行わなかった場合の胎児への感染率は25~30%です。

初期症状は?

HIVに感染した場合、初期症状はくしゃみ、鼻水、発熱、倦怠感など、風邪やインフルエンザと同じような感冒様症状が現れます。
その後は数年から10年程度の潜伏期間(無症候期)となり、後天性免疫不全症候群が発症するまでは臨床検査での診断は難しいのが現状です。

出産や胎児へのリスクは?

母親がHIV感染している場合、何も処置をしない場合は、子どもがHIVに感染するリスクがあります。
なお、母体側の出産時等における直接的なリスクは特にありませんが、帝王切開に伴う大量出血等のリスクがあります。

予防方法は?

赤ちゃんへの感染予防の方法は以下の4つです。

  • 抗HIV薬投与(妊娠中のHIVの量を減らすため)
  • 選択的帝王切開(産道感染を防ぐため)
  • 母乳での授乳禁止(母乳感染を防ぐため)
  • 新生児への抗HIV薬の予防投与

※選択的帝王切開は、帝王切開を行う日を予め決めておき(大体38週ごろ)、陣痛が発来する前に実施する帝王切開の手法です。
※抗HIV薬としては一般的に「アジドチミジン」(別名「ジドブジン」)を成分とする「レトロビル」という薬が使われます。
選択的帝王切開により、母子感染の確率を約30%から1%にまで減らす事ができることが分かっています。

抗HIV薬投与の効果

なお、HIV感染者の分娩は、原則として選択的帝王切開が実施される一方で、抗HIV薬の投与でHIVを減少させている場合の経腟分娩による母子感染率は2%程度にまで抑えられ、帝王切開とほぼ変わらないという報告もあります。
また、帝王切開には大量出血のリスクもあります。
このため、今後、抗HIV薬投与による経腟分娩が増えていくかもしれません。

検査方法は?

血液を採取して、HIVの抗体検査を行い陽性かどうかを調べます。
なお、スクリーニング検査では、偽陽性が95%と非常に高く、二次検査が必要になります。
二次検査ではHIV-1ウェスタンブロット法(HIV抗体価精密測定)およびHIV-1 PCR法(HIV核酸増幅定量精密検査)の2つを同時に実施します。

治療方法は?

血中のウイルス量を抑え続ける治療法が取られ、強力な多剤栄養療法(HAART)を行うのが一般的です。
※HAARTは「高活性抗レトロウイルス療法」とも呼ばれ、ウイルスの増殖能力を抑え、ウイルスを減少あるいは増殖させないようにする療法です。

HIVの守秘義務

HIVの陽性反応が出たことや、HIV陽性の妊婦であることが会社や病院内で秘密にされるか(バレないか)は、妊婦にとっては精神面において重要な事柄です。
まず、HIVの結果については、たとえ陽性反応が出たとしても、本人に告知されるだけであり会社等に通知されることはありません。
また会社でHIV検査を実施することは原則認められておらず、仮に検査を行った場合でも検査実施者は秘密の保持を徹底することがガイドラインで定められており、これを破ることはプライバシーの侵害にあたります。
これは病院においても同様で、病院側が他の妊婦や親族等にそれを漏らすことはありません。

HIV陽性の妊婦の病院での差別

HIVが陽性だった場合、病院(産婦人科)で差別される、極端な話、分娩を拒否されるという事はありません。
但し日本の場合はHIV陽性の妊婦の数は圧倒的に少なく、単に事例がまだ無いだけかもしれません。
医療関係者がHIVに対して無知であるはずはないのですが、実際に中国ではHIV陽性の妊婦の出産を4つの病院で断られたという事例もあります。
このようなHIVの妊婦に、偏見から追い打ちをかけるような行為は日本では発生しないと信じたいですね。

公開日時:2016年05月22日 17時39分

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