「妊婦健康診査(妊婦健診)」の実施回数と検査項目

カテゴリ:妊娠の基礎知識
タグ:妊婦健康診査

妊婦健康診査とは

妊婦健康診査は胎児の成長や発達に伴い母体には様々な生理的変化が起きますが、その時点の母児の健康状態を評価する目的で実施されます。
医師にとっても正常と思われていた妊娠や分娩でも、検査を実施することで予期せぬ危険が内在している事を発見できる場合があり、それに対する予防的措置や緊急措置をとることができます。

間隔と実施回数

妊婦健康診査は妊娠初期から妊娠23週までは4週間ごと、24週から35週までは2週間ごと、36週以降から分娩までは1週間ごとに実施します。
このため妊娠期間全体の受診回数は13~14回になります。

一般検査項目

問診・視診

問診では妊娠成立に関わる事項(最終月経開始日、月経周期、生理不順の有無など)や、既往妊娠(流産、早産、感染症、帝王切開など)に関わる事項、家族歴(遺伝性疾患など)、既往歴(手術歴、輸血歴、アレルギーなど)を聴取します。
視診では胎動感や子宮収縮、出血などの異常徴候の有無、妊娠経過中のマイナートラブルの有無、妊婦の表情、顔色、姿勢などから全身状態などを確認します。

尿化学検査

尿化学検査では、随時尿を採取し、子癇前症や妊娠蛋白尿、泰糖尿異常のスクリーニングのために、試験紙法で尿蛋白や尿糖の定量検査を実施します。

蛋白尿

以下の場合に蛋白尿が陽性となります。

複数回の新鮮尿検体を用いて、1+(30mg/dL)以上が2回以上連続した場合

尿糖

以下の場合に尿糖が陽性となります。

複数回の新鮮尿検体を用いて、1+(100mg/dL)以上が2回以上連続した場合

※一般的には血糖値が160~170mg/dL以上の場合に尿糖が陽性となりますが、妊娠中は尿中グルコースが増加するため尿細管での再吸収が追いつかずに高血糖になる場合があり、通常時とは判定基準が異なります。

血圧測定

座位で数分間の安静時の右腕の血圧を測定します。
妊娠中は母体の血圧に変化がないのが一般的です。

高血圧の診断基準

以下の場合に高血圧の診断になります。

収縮期血圧:140mmHg以上
拡張期血圧:90mmHg以上

体重測定

非妊時の体重と比較して、体重の増加量から体重の増加量が正常か否かを診断します。

正常範囲

以下の体重増加量の範囲であれば正常です。

300~500g

※非妊時に「低体重(やせ)」、または「ふつう」の場合のみ該当します。
※非妊時に「肥満」の場合は個別対応となります。

浮腫の有無

下肢脛骨上に膨らみがあるか否かを指圧で圧痕が残るかで診断します。
なお、浮腫は約30%の妊婦に見られますが、浮腫のみが見られる場合は正常妊娠の場合が多いことが分かっています。
※以前は妊娠高血圧症候群の主症状として考えられていました。
※但し、尿量や血圧の変動がある場合は、妊娠高血圧症候群の可能性も含めての診察が必要です。

子宮底長の計測

子宮底長は、恥骨結合上縁から子宮底最高部までの距離をメジャーで測定します。(安藤の方法)
具体的には、まず妊婦を仰向けに寝かせた状態で膝を曲げさせ、子宮底部の最高部にメジャーを当て、次に膝を伸ばして恥骨結合上縁までを測定します。

胸囲の計測

一般的には臍(へそ)の周囲を測定します。
なお、腹囲測定の有用性に対してエビデンスはないため、必須ではありません。

腹部触診

腹部を触診して胎児の位置を診察します。
一般的にはレオポルド触診と呼ばれる手技を用います。

レオポルド触診の手順

  1. 両手指を腹部にそっと当て、子宮底の胎児部分を診断
  2. 両手指を下方にずらして児背と母体の左右の関係(胎向)を診断
  3. 胎児の下降部を手指で挟むようにして診断
  4. 向きを変えて両手指で胎児下降部の陥入程度(固定、変動、浮遊など)を診断

腹部聴診

妊娠12週頃から超音波ドプラ法を用いた胎児心音の聴取が行われます。

外診

外診では主に以下を実施します。

  • 陣痛の強弱および周期を両手掌で触知
  • 子宮底長の計測と胎位、胎向を診断
  • 胎児下降部を触知
  • 胎児心音を聴取
  • ザイツ法(Seitz法) 陽性など児頭骨盤不均衡(CPD)が疑われる場合や骨盤位の場合は骨盤X線計測を実施

内診

初診時から妊娠前半期、および妊娠37週以降に実施します。
また、出血や腹痛などの異常徴候が現れた場合にも実施します。

妊娠37週以降の内診の検査項目

特に妊娠37週以降の内診では以下を検査します。

  • 分泌物の正常性および出血の有無、破水の診断
  • ビショップスコア
  • 胎児先進部の診断

※破水の診断にはプロムチモールブルー(BTB)法によるpH試験を実施し、青色(アルカリ性)の場合破水と診断されます。
※腟内は酸性で羊水はアルカリ性です。

妊娠に関する検査項目

血液検査

血液検査は主に妊娠初期の異常に対して医学的処置(母子感染の予防措置)により母児の予後を改善することが目的で実施されます。
血液検査では以下の検査を実施します。

  • ABO式血液型
  • Rh式血液型
  • 不規則抗体のスクリーニング(間接クームス試験)
  • 血球計算(血算)
  • HBs抗原
  • HCV抗体
  • 風疹抗体(HI法)
  • 梅毒スクリーニング
  • HTLV-1抗体
  • HIVスクリーニング

なお、妊娠中期(24~28週)では妊娠糖尿病のスクリーニングを実施することが推奨されています。
※切迫早産では治療に塩酸リトドリンを使用しますが、交感神経の刺激作用があり母体血糖値を上昇させ、妊娠糖尿病を重症化させるリスクがあるため、妊娠糖尿病の診断は重要になります。

生化学的検査

生化学的検査は血液を遠心分離器にかけて血清とそれ以外の成分(赤血球、白血球、血小板など)に分離させ、血清を科学的に分析する検査方法です。
胎児や胎盤で産生されるホルモンを測定し、妊娠のや胎児、胎盤の状態を評価します。
特に妊娠初期のヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の値の測定により、流産や異所性妊娠、胞状奇胎(子宮の中にブドウのようなつぶつぶが発生する病気)などの診断や治療効果の判定が行えます。

超音波断層法による検査

妊娠初期

超音波断層法(エコー検査)は、妊娠初期においては、胎嚢や胎芽心拍動の確認、胎児頭臀長の測定のために実施されます。
一般的には妊娠5~6週頃には経腟超音波検査において子宮内に胎嚢が確認できます。
もし確認できない場合、異所性妊娠(子宮外妊娠)や流産、胞状奇胎の疑いがあります。
特に異所性妊娠は処置が遅れれば腹腔内多量出血による母体の出血性ショックのリスクがあるため、早期診断が重要になってきます。
また、不全流産や完全流産となった後では、流産か異所性妊娠かの鑑別が難しくなります。

妊娠中期以降

妊娠中期以降では、主に胎児形態異常の有無や胎児発育の評価、胎児の健康状態、胎盤や臍帯異常の有無などの評価を実施します。
胎児の形態異常の診断は妊娠20週前後に一度行います。

分娩監視装置による検査

分娩監視装置による検査としてノンストレステスト、およびコントラクションストレステストを実施します。

ノンストレステスト

ノンストレステスト(NST)は自然の状態でドプラ心拍計図を用い、胎児心拍数を連続記録して胎児が良好な状態(well-being)かを診断します。
具体的には、40分間中の任意の20分間に15bpm以上15秒以上持続する一過性頻脈が2つ以上あればreactive NST(well-being)の診断となります。
一般的に妊娠34週以降に実施します。

コントラクションストレステスト

コントラクションストレステスト(CST)は胎盤機能の異常が疑われる症例において、人工的に子宮収縮を起し、その負荷に対する胎児心拍数の変化から胎児が出産に耐えられるか否かを診断します。
一般的にノンストレステスト(NST)での胎児の状態が判断できない場合に実施されます。

バイオフィジカルプロファイルスコア

バイオフィジカルプロファイルスコア(BPS)は、ノンストレステスト(NST)の以下の5つの項目から胎児の状態把握を行うための指標です。

バイオフィジカルプロファイルスコア表
項目正常時の条件点数
胎児呼吸様運動30分間に30秒以上続く呼吸様運動が1回以上あれば正常2点
胎動躯幹・四肢の運動が30分間に3回以上あれば正常2点
筋緊張躯幹・四肢の屈曲・伸展運動あるいは手掌の開閉運動が30分間に1回以上あれば正常2点
羊水量2cm以上の羊水ポケットがあれば正常2点
NST20分間に15bpm以上15秒以上持続する一過性頻脈が2つ以上あれば正常2点
合計スコアと判定
合計スコア診断
8~10点正常
6点胎児ジストレスの疑いあり
4点以下異常(胎児ジストレスの疑いが極めて高い)
2点以下異常(ほぼ確実に胎児ジストレス)

費用

一般的には、初診料が10,000~15,000円程度、全体(14回分)では100,000円程度かかります。(実施する検査項目により上下します)

助成制度

妊婦健康診査は自治体で費用の助成(一般的に母子健康手帳と一緒に受診票として配布)が受けられる場合がありますので、自治体のホームページなどを確認してください。
※一般的には健診費用14回分+経腹超音波検査費用+子宮頸がん検診費用が助成されます。

公開日時:2017-09-11 23:09:52

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