「心疾患合併妊娠」とは?循環血液量が増加する気をつける時期は?

カテゴリ:妊娠の基礎知識
タグ:合併症妊娠

心疾患合併妊娠とは?

心疾患の合併症妊娠では、母体の循環血液量や心拍出量、血圧、心拍数、末梢血管抵抗などが大きく変化する事で循環動態が変動し、心疾患が悪化して心不全に至る場合があります。
※循環動態は心臓・血管・循環血液量の状態を表します。

原因は?

妊娠時には胎児に血液を供給するために母体の循環血液量が増加しますが、妊娠30週前後には非妊時の1.3~1.5倍に達します。
それにより心拍出量も増加し、心拍数も10bpm程度増加することになります。
特に分娩時や産褥期には子宮収縮による静脈還流量(心臓に戻ってくる血液の量)が増加し、また分娩時出血などにより心拍数が大きく変化します。
これらの状況は心臓に大きな負担(心臓の仕事量の増加)をかける事になり心不全を来すリスクが高まります。
このため、心疾患の既往がある妊婦の場合、特に予備能の評価(心機能評価)が重要になってきます。

妊娠による循環器系の生理的変化

妊娠期、分娩期、産褥期には母体の循環器系に以下のような目まぐるしい変化が起こります。

妊娠期の変化

循環血液量が妊娠6~12週頃よりも増加し、妊娠30週には非妊時と比較して約30~50%も増加します。
また、心拍出量も妊娠20~24週では約30~50%増加します。
このため、妊娠28週~32週にかけて心臓への負担がピークに達します。
その後子宮増大により下大動脈が圧迫されることで心臓への静脈還流が減少し、今度は心拍出量が減少し低血圧を来し、仰臥位低血圧症候群のリスクが高まります。

分娩期の変化

陣痛の発作時に血圧が上昇し、また子宮収縮によって静脈還流量が増加します。
このため、1回心拍出量あたり約35%増加します。
また分娩2期(子宮頚部が全開大してから胎児娩出まで)には怒責(いきみ)によって胸腔内圧が上昇して静脈還流が減少し、今度は1回心拍出量が減少します。

産褥期の変化

分娩直後には子宮収縮が起こり、下大静脈の圧迫が解除されることで静脈還流量が再度増加します。
これに伴い1回心拍出量が一時的に約60%増加します。
しかし、分娩から1時間後には1回心拍出量は逆に分娩前と比べて約10~20%減少します。
ちなみに心拍出量が非妊時に戻すのは分娩から5週間後になります。

初期症状は?

心不全の初期症状としては一般的に以下の感冒様症状(風邪に似た自覚症状)が現れます。

  • 呼吸困難
  • 倦怠感
  • 労作時呼吸困難
  • めまい
  • 失神

出産や胎児へのリスクは?

母体の心機能の低下により主に以下の疾患のリスクがあります。

発生する確率は?

全妊婦の内の約1%が心疾患を合併しています。

予防方法は?

心疾患の根本的な予防方法は、先天性心疾患を除けば、その原因因子を取り除くことになります。
但し心疾患既往の場合、後述するニーハ(NYHA:New York Heart Assdolation)の心機能分類でⅢ度やⅣ度の場合、流産や胎児発育不全、心不全となる可能性が高く妊娠は許可されていません。

検査方法は?

一般的に心機能評価には以下のNYHA(ニーハ)の心機能分類が使用されます。
Ⅰ度やⅡ度の場合は、比較的妊娠予後は良好ですが、それでも厳重な管理の下での妊娠・分娩が必要です。
なお、Ⅲ度やⅣ度では妊娠・分娩中の母体死亡率が高いため妊娠は許可されておらず、一般的には人工妊娠中絶の選択を迫られます。

NYHAの心機能分類
分類臨床症状
Ⅰ度日常活動で不快症状なし
Ⅱ度日常活動で不快症状あり
Ⅲ度軽労作(デスクワークなど)で不快症状あり
Ⅳ度安静時にも心不全症状あり

妊娠前の検査

心疾患の有無は以下の検査を実施することで診断します。

  • 胸部X線検査
  • 心電図検査
  • 心エコー検査
  • 血液学的検査
  • 動脈血ガス検査

妊娠期の検査

妊娠中では、上述した心不全の自覚症状がないかや、チアノーゼや心雑音の有無が確認されます。

分娩期の検査

分娩は血圧や心電図、NSTで母体や胎児の全身状態を持続的にモニタリングしながらの実施となります。
なお、分娩方法は経腟分娩が推奨されています。

治療方法は?

妊娠中、分娩時には以下の措置が実施されます。

妊娠中の治療

心疾患の種類や重症度に応じて治療方針を決定します。 なお、心疾患に対して薬剤投与を行う場合、胎児への催奇形性の影響があるワルファリン(静脈投与)による抗凝固療法は中止し、妊娠6~12頃にヘパリン(内服)に変更します。
※ワルファリン、ヘパリンはどちらも抗凝固薬(血液を固まりにくくする薬)ですが、ワーファリンは妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与は禁忌となっています。
※催奇形性は妊婦への薬物投与が原因で起きる胎児奇形の可能性がある事を意味します。

分娩時の治療

分娩第2期を短縮し、鉗子分娩や吸引分娩を実施することでできるだけ怒責を避けます。
また分娩第3期(胎児娩出から胎盤娩出まで)では循環血液の急変を避けるためにできるだけ出血を抑えます。
陣痛の度に300~500mLの血液が子宮胎盤循環により母体に流れ、分娩終了後には心臓への静脈還流が増加するため、心機能が低下している場合、分娩時から産褥早期にかけて心不全を来しやすい状態になります。
このため、陣痛や怒責による循環動態の変動をできるだけ抑えるために多くの場合で硬膜外麻酔を使用します。
また、いつでも帝王切開術に移行できるよう、ダブルセットアップを行い分娩時の出血や感染予防の準備をしておきます。

産褥期の治療

分娩後は少なくとも72時間は心電図モニターで観察が必要となり、特に静脈還流の増加による心不全や血栓塞栓症、感染性心内膜炎の徴候有無の確認や予防を行います。

新生児の治療

新生児については、分娩時には新生児科医が待機し、新生児の蘇生法アルゴリズムによる新生児蘇生の準備を万端にしておきます。
比較的早産や胎児発育不全となる場合が多いため、新生児の全身管理も必要になります。

公開日時:2017-09-03 17:25:41

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