推定胎児体重(EFW)の計算と「胎児発育不全」の診断基準
胎児発育不全とは?
胎児発育不全(FGR)は妊娠週数に対して胎児の大きさが正常範囲外である場合を言い、推定胎児体重(EFW)から診断します。
診断方法
まず、胎児発育不全の診断のための前提条件として、最終月経の開始日からの正確な妊娠週数が分かっている必要があります。
そして、超音波検査(エコー検査)で推定胎児体重(EFW)を測定し、測定値が標準発育曲線の標準偏差(SD)に対して-1.5SD以下の場合に胎児発育不全と診断します。
つまり現在は胎児の体重のみから診断されます。
※最終月経の開始日から妊娠週数を確認する場合は「胎児の身長と体重も分かる、妊娠週数・胎齢計算機」をご利用ください。
推定胎児体重の計算式
推定胎児体重(EFW: Estimated Fetal Weight)は児頭大黄径(BPD)、腹囲(AC)、大腿骨長(FL)の値から、以下の公式(エリプス法)で求められます。
※エリプス法は日本超音波医学会の推奨式です。
エリプス法:
EFW(g) = 1.07 x BPD3 + 0.30 x AC2 x FL
推定胎児体重の計算機
※妊娠週数における胎児の平均体重と-1.5SDの目安は「妊娠週数ごとの胎芽・胎児の身長(CRL/BPD)と体重の目安」をご参照ください。
その他の計算式
篠塚式(東大式):
EFW(g) = 1.07 x BPD3 + 3.42 x APTD x TTD x FL
※APTD:躯幹前後径(cm)、TTD:躯幹横径(cm)
青木式(阪大式):
EFW(g) = 1.25647 x BPD3 + 3.50665 x FTA x FL + 6.3
※FTA:躯幹断面積(cm2)
(こちらは公式には用いられない)
超音波検査で胎児発育の指標として用いられる項目
妊娠週数における胎児の大きさは、以下が指標として用いられます。
評価する項目 | 妊娠週数 |
---|---|
胎嚢(GS) | 妊娠5~7週までの胎児発育の指標 |
頭臀長(CRL) | 妊娠8~11週までの胎児発育の指標 |
児頭大黄径(BPD) | 妊娠12週以降の胎児発育の指標※ |
腹囲(AC) | 妊娠12週以降の胎児発育の指標※ |
大腿骨長(FL) | 妊娠12週以降の胎児発育の指標※ |
※推定胎児体重(EFW)の計算に用いられる
SFD児とLFD児
少し前までは、胎児の出生時体重と身長の両方が出生時体重基準曲線の10パーセンタイル未満の胎児をSFD児、出生時体重のみが出生時体重基準曲線の10パーセンタイル未満の胎児をLFD児とし、SFD児やLFD児となる可能性がある場合に胎児発育不全と判断していました。
分類
胎児発育不全は均衡型と不均衡型に分類されます。
均衡型 |
妊娠初期の妊娠16週から発育障害が起こり、均衡のとれた発育障害となります。 ダウン症などの胎児染色体異常や胎内感染(TORCH症候群)等が該当します。 |
---|---|
不均衡型 |
胎児の栄養失調が原因の発育不全であり、子宮胎盤循環不全に起因して起こります。 胎児の重要な臓器への血流再分配が起こり、脳や心臓、肺などの発育は正常であるものの、他の部位に発育障害が起こり、特に腹囲で小さい不均衡が起きます。 |
原因は?
胎児発育不全の原因は大きく分けて以下の3つの原因に分けられます。
胎児因子 | 染色体異常、胎内感染、胎児奇形 |
---|---|
胎盤・臍帯因子 | 胎盤形成不全、絨毛膜下血腫、前置胎盤、絨毛膜羊膜炎、臍帯付着部異常、臍帯茎捻転、臍帯結節 |
母体因子 | 家族歴、栄養体格、心疾患、高血圧、腎疾患、糖尿病、膠原病、薬剤服用、喫煙習慣、妊娠高血圧症候群 |
初期症状は?
超音波検査で判明するのが通常であり、特に初期症状はありません。
出産や胎児へのリスクは?
胎児の状態をバイオフィジカル・プロファイル・スコア(BPS)を用いて評価しながら、適切な時期に分娩を行い、胎外治療に移行していきます。
胎児発育不全の胎児では未熟児という点以外に、以下の特有の病態を呈します。
異常項目 | 説明 |
---|---|
糖質代謝の異常 |
もともと肝臓のグリコーゲンの貯蔵が少ないために、糖質が不足し、低血糖を生じる危険があります。 また、カテコールアミンの分泌能力が低下しているため、ストレスに弱い体質になります。 |
血液の異常 |
子宮内で長期間の間、低酸素状態となる事でエリスロポエチンと呼ばれる赤血球の産生を促進するホルモン物質の分泌能力が低下し、血小板が減少する傾向があります。 |
腸管機能の異常 |
血流の再分配が生じることで、腸管の血流が著しく制限され、腸閉塞(イレウス)に近い病態を呈します。 このために、壊死性腸炎や胎便栓症候群を発症するリスクがあります。 |
免疫異常 |
免疫力低下のために感染症にかかりやすくなります。 |
心機能の異常 |
子宮内で長期間の間、低酸素状態となる事で心臓の予備能力が低下し、出生時の循環動態の変化が正常に行われず、心不全を生じる可能性があります。 ※循環動態の変化は、胎児では血流は胎盤から臍帯を介して肺を経由せずに動脈管(ボタロー管)から大動脈へと循環していましたが、出産後は肺に血流が流れ込み、肺動脈の循環へと変化します。 |
予防方法は?
生活習慣に起因する母体因子であれば、生活習慣の改善で予防できる可能性があります。
例えば、薬物服用によるものや、喫煙などが挙げられます。
検査方法は?
上述したように、超音波検査で推定胎児体重(EFW)を測定し、標準偏差から判定します。
治療方法は?
原因を特定し、基礎疾患に対する治療、もし生活習慣が原因であれば、その見直しなどを行います。
胎内感染が原因の場合は、羊水診断を実施し、合併奇形に対して詳細な検査、治療を試みます。
公開日時:2017年04月16日 11時53分
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