「骨盤位」とは?「逆子体操」で逆子を治せるのはいつ頃まで?
骨盤位とは?
骨盤位は一般的には逆子とも呼ばれ、胎児の先進部が後頭部ではなく骨盤部となる胎位(児頭が上を向いている状態)を指し、胎位異常の1つです。
なお、妊娠中期までは30~50%が骨盤位ですが、多くの場合は分娩時までに自然に回転して頭位(下向き)になります。
骨盤位の状態での分娩は正常な状態で自然分娩される事は稀であり、通常は帝王切開術による分娩が行われます。
なお、米国産婦人科医会(ACOG)は 「正期産骨盤位分娩は経腟分娩を試みることなく選択的帝王切開をすべき」としています。
日本でも殆どの場合、帝王切開になりますが、条件付きで骨盤位で経腟分娩を実施する場合もあります。
骨盤位の種類
下肢と躯幹の位置関係により単殿位、全複殿位、不全複殿位、全膝位、不全膝位、全足位、不全足位に細分類されます。
出産や胎児へのリスクは?
殆どの場合は、帝王切開での分娩になりますが、帝王切開術のリスクについては、「「帝王切開術」の選択基準と実施方法および母体へのリスク」をご参照ください。
骨盤位での経腟分娩の主なリスクについては、以下が挙げられます。
- 臍帯圧迫による胎児低酸素症
- 臍帯脱出
- 新生児分娩外傷
- 頭蓋内出血
- 脊椎損傷
- 頚椎損傷
- 鎖骨骨折
- 四肢骨折
- 内臓損傷
- 外陰部損傷
- 腕神経損傷(腕神経叢麻痺)
- 坐骨神経損傷
発生する確率は?
分娩時まで骨盤位である場合の割合は全分娩の3~5%です。
予防方法は?
上述したように妊娠中期までは30~50%が骨盤位であり、骨盤位になる事自体は異常ではなく全妊娠の半数で起きるという事もあり、根本的な予防方法はありません。
検査方法は?
一般的には超音波検査で判明します。
治療方法は?
治療方法は妊娠週数によって異なってきます。
なお、以下の表のように、逆子治療ができる時期は妊娠30~36週頃までの約6週間(1ヶ月半)になります。
妊娠30~35週頃まで | 胎児の自然回転を期待し、逆子体操(膝胸位、側臥位)を行います。 |
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妊娠35週 | 上記に加えて外回転術(医師がお腹の外側から逆子を治す方法で60~70%は治る)を実施します。 ※外回転術を妊娠37週以降に実施するよりも、妊娠37週より前に実施した方が非頭位での分娩(経腟分娩、帝王切開)の確率を低減させる効果が高い事が分かっています。 |
妊娠36週以降 | もう逆子を治せる可能性は低いため、経腟分娩か帝王切開かを決めます。 ※但し、経腟分娩にはいくつかの条件があり、殆どの場合は帝王切開になります。 |
逆子体操
妊娠35週頃までは以下のいわゆる逆子体操(姿勢)で骨盤位を治すことを試みます。
膝胸位
胎児の回転を促すために、児頭が下になるようにうつ伏せ状態で頭を枕に付けて胸を下げ、逆にお尻を持ち上げた姿勢を約15分間とります。
こうすることで胎児は母体の後方に頭を回転しようとします。
側臥位
横を向いて寝た姿勢を取ります。
この時、胎児がうつ伏せの状態になるように、胎児の背中が上になるように寝ます。
例えば胎児の背中が母体の右側を向いている場合、右側が上になるように横になります。
外回転術
外回転術の一般的な実施方法は以下となります。
- 児のお尻部分を骨盤入口部から持ち上げるように手で押し上げます。
- 次に児のお尻部分を片側の腸骨窩(腰の下辺りにある隙間)の方向へ回転させるように移動させます。
- 児のお尻部分を上げた分だけ、頭部を下方向に移動させて少しづつ回転させ横位(児が横向き)にします。
- 更に回転を続け、横位から児頭が下方向に向くまで続けます。
- 児頭が下方向に向けば、更に児頭を母体の正中方向へ押し込みます。(児の頭が下を向き180度回転した状態になるように)
- 児を下方向に押し下げて、母体の骨盤方向へ児頭を嵌入します。
骨盤位での経腟分娩の方法は?
骨盤位での分娩は非常にリスクが高いため、現在は殆どの場合で帝王切開による分娩を実施しますが、以下は参考のために、骨盤位での経腟分娩の方法について記述します。
なお、下記の条件にもありますが、いつでもすぐに帝王切開に切り替えられるように万全の準備をした上で、実施します。
条件
まず、骨盤位で経腟分娩を実施する場合、以下の条件をすべて満たしている必要があります。
- 殿位(単殿位・側殿位)であり、足位ではない。臍帯下垂がない。
- 胎児がwell-beingである。
- 妊娠34週以降、推定体重2000g以上3000g未満である。
- 児頭骨盤不均衡がない。
- 児頭が屈位で頸部過伸展がない。
- 分娩の進行が円滑で回旋異常がない。
- 産婦および家族が経腟分娩に同意している。
- 緊急帝王切開のためのダブルセットアップを行っている。
方法
状況に応じて牽出術が異なります。
胎児の体幹まで自然娩出された場合
ブラハト(Bracht)法により、児の体幹と下肢を手で挟むように持ち、母体の腹側に押し付けるようにして、児の肩甲下部が娩出されたら、母体の腹側にゆっくりと回旋させて娩出させます。
胎児の体幹が自然娩出されない場合
上肢挙上(児が手を挙げたポーズ)がない場合は、横8字型骨盤位娩出術を用い、児のお尻部分を両手で掴み、横に8の字を描くように動かしながら児の体幹を牽引して娩出させます。
上肢挙上がある場合は、古典的上肢解出術を用い、児を横向きにして足首を持って上に牽引します。
骨盤腔内に隙間ができたら、もう片方の手で児の背中に手を滑り込ませるようにして腟内に手を入れ、児の下側の手を軽く握って180度回転させながら牽引します。
児頭の娩出方法
児の頭部を娩出する際の牽出術として、ファイトスメリー(Veit-Smellie)法があります。
但し、頚椎損傷や鎖骨骨折、腕神経叢麻痺を引き起こすリスクがあり、注意が必要な方法です。
実施方法は、まず術者の手のひらの上に児を載せ、人差し指と中指を腟内に入れて児の頬骨に添え、児の顎を引かせて屈位となるようにします。
次にもう片方の手の人差し指と中指で児の首を後ろから挟み、他の指と手のひらを児の背中に添え、両方の手で後方に牽引します。
児の後頭部の突起部分(後頭結節)が母体の恥骨弓の頂点に達したら、後方への牽引を止めて、今度は骨盤軸に沿って上方向に回旋させて母体のお腹に児を載せるようにして娩出させます。
公開日時:2017年05月09日 15時53分
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