「微弱陣痛」とは?予防策は意外にも睡眠や食事などの基本的な事
微弱陣痛とは?
微弱陣痛は陣痛が微弱で発作の持続性が短く周期が長いため分娩が進行しない状態を言います。
微弱陣痛の定義
日本産科婦人科学会では子宮内圧、陣痛周期、持続時間の3要素による陣痛の強度(正常、微弱、過強)を定めています。
なお、実際には子宮内圧を測定することは困難であるため、陣痛周期、持続時間から子宮内圧を推定します。
例えば、子宮口開大度が4~6cmの場合、陣痛周期は6分30秒以上あり、持続時間が40秒以内、また子宮口開大度が7~8cmの場合は、陣痛周期は6分以上あり、持続時間が40秒以内です。
更に、子宮開大度が9cm~分娩第2期では、陣痛周期は初産婦で4分以上あり(経産婦は3分30秒以上)、持続時間が30秒以内の場合は微弱陣痛になります。
陣痛 | 3要素 | 子宮口開大度 | ||
---|---|---|---|---|
4~6cm | 7~8cm | 9cm~分娩第2期 | ||
正常陣痛(平均) | 子宮内圧 | 40mmHg | 45mmHg | 50mmHg |
陣痛周期 | 3分 | 2分30秒 | 2分 | |
持続時間 | 70秒 | 70秒 | 60秒 | |
微弱陣痛 | 子宮内圧 | 10mmHg未満 | 10mmHg未満 | 40mmHg未満 |
陣痛周期 | 6分30秒以上 | 6分以上 | 初産婦:4分以上 経産婦:3分30秒以上 | |
持続時間 | 40秒以内 | 40秒以内 | 30秒以内 | |
過強陣痛 | 子宮内圧 | 70mmHg以上 | 80mmHg以上 | 55mmHg以上 |
陣痛周期 | 1分30秒以内 | 1分以内 | 1分以内 | |
持続時間 | 2分以上 | 2分以上 | 1分30秒以上 |
原因は?
分娩開始時から微弱陣痛が認められる場合を原発性、最初は正常だったが分娩の途中から認められるようになった場合を続発性とします。
それぞれの分類ごとの考えられる原因は以下となります。
原発性
- 子宮奇形や子宮筋腫などの子宮の変化によるもの
- 多胎妊娠や羊水過多など子宮筋の過伸展によるもの
- 胎位異常や前置胎盤、狭骨盤などの子宮下部の神経に対する刺激不足によるもの
- 恐怖や精神的不安によるもの
続発性
- 狭骨盤や児頭骨盤不均衡、軟産道強靭などの産道異常によるもの
- 巨大児や水頭症などの胎児の異常によるもの
- 胎位・胎勢・回旋の異常によるもの
- 膀胱・直腸の充満によるもの
- 母体疲労によるもの
初期症状は?
陣痛周期や持続時間から分かるものであり、通常自覚症状はありません。
出産や胎児へのリスクは?
破水後の微弱陣痛は放置すると母児の感染のリスクが高まります。
また、胎児機能不全や分娩停止のリスクもあります。
治療方法は?
分娩時の対処方法
分娩第1期で発生
分娩第1期で微弱陣痛が認められた場合、未破水の状態では、原因の究明とそれに対応した対処を行います。
例えば、膀胱・直腸を空にする事や十分な睡眠、栄養の摂取などです。
破水後は母児の感染症を防止するため、陣痛促進薬を使用して陣痛促進を実施します。
同時に母児感染予防のために抗生物質も投与します。
これらの治療が行えない場合、帝王切開術を実施します。
分娩第2期で発生
分娩第2期で微弱陣痛が認められた場合、陣痛促進薬による陣痛促進、未破水の場合は人工破膜を行います。
胎児機能不全や分娩停止の場合は鉗子分娩、吸引分娩などの急速遂娩を実施します。
陣痛促進薬とは?
一般的には陣痛促進薬(子宮収縮薬)の投与により陣痛を誘発させます。
陣痛促進薬には陣痛誘発と陣痛促進の2つの作用があり、使われる薬は子宮収縮薬のオキシトシン、プロスタグランディンF2a、プロスタグランディンE2のホルモン剤です。
オキシトシン、プロスタグランディンF2aは点滴、プロスタグランディンE2は経口薬で投与します。
インフォームドコンセントとリスク
なお、陣痛促進薬の投与前には必ず投与の必要性やその方法、予想される効果とリスクについて説明され、同意を得た上で実施します。
その際、一般的に同意の証拠を残すために文書でも同意が行われます。
これは陣痛促進薬の投与では、次に上げる過強陣痛などのリスクがあるためです。
※実際、過強陣痛の原因として最も多いのは陣痛促進薬の過剰投与です。
- 産科ショック
- 過強陣痛
- 子宮破裂
- 頸管裂傷
- 弛緩出血
- 胎児機能不全
陣痛促進薬投与の必須条件
陣痛促進薬の投与には次の必須条件があります。
- 妊婦および家族に十分な説明を行い同意を得る
- 子宮収縮薬の投与開始前に分娩監視装置を装着する
- 子宮頸管が熟化している
- 子宮収縮薬静脈内投与時に精密持続点滴が利用できる
陣痛促進薬投与の禁忌事項
次の場合には陣痛促進薬を投与できません。
- 当該薬剤過敏症
- 前置胎盤
- 明らかな児頭骨盤不均衡
- 帝王切開既往2回以上
- 子宮体部に切開を加えた帝王切開既往
- 子宮筋全層やそれに近い子宮切開既往
- 他の子宮収縮薬との同時併用
- 吸湿性頸管拡張剤との同時使用
- 常位胎盤早期剥離
- 重度胎児機能不全
更に、プロスタグランディンF2aは気管支喘息および緑内障、プロスタグランディンE2は緑内障には禁忌です。
陣痛促進薬投与の方法
オキシトシン
オキシトシンは点滴(点滴静注)で投与します。
投与速度は、1~2mIU/分から始まり、30分以降は最大投与量である20mIU/分まで1~2mIU/分ずつ増やしていきます。
※IU は International Unit の略で、ビタミンやホルモンなどの量を表す国際単位です
プロスタグランディンF2a(PGF2a)
プロスタグランディンF2aは点滴(点滴静注)で投与します。
投与速度は、1.5~3.0μg/分から始まり、30分以降は最大投与量である25μg/分まで1.5~3.0μg/分ずつ増やしていきます。
※気管支喘息および緑内障には禁忌
プロスタグランディンE2(PGE2)
プロスタグランディンE2は経口薬として投与します。
投与速度は1時間ごとに1錠、1日6錠までです。
なお、子宮頸管熟化が投与の必須条件になります。
※緑内障には禁忌
微弱陣痛時に妊婦が心がけること
主に次の4点を意識し、心がけることで微弱陣痛を予防、あるいは解消できる可能性があります。
睡眠
微弱陣痛の原因の1つは疲労であり、睡眠不足はその大きな要因となります。
そのため、陣痛と陣痛の間の少しの時間でも睡眠を取り、少しでも睡眠を取るように心がけ、疲労を回復することが大切です。
食事
子宮口開大4~5cmまでは食事の摂取は可能であるため、食事を摂るように心がけます。
もし食事が摂れない場合は、糖分を含む飲み物の摂取でも血中のグルコースが補給され、疲労回復の効果があります。
リラックス
緊張は疲労につながるため、気持ちを和らげ、リラックスすることで疲労回復を心がけます。
排泄
膀胱・直腸の充満を抑止するために、食事と水分を十分摂取した上で、定期的な排泄を心がける事も大切です。
また、未破水の場合は温浴も効果的です。
公開日時:2016年11月13日 11時39分
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